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検証ナチスは「良いこと」もしたのか(小野寺拓也、田野大輔 著 岩波ブックレット)

11代目伝蔵 書評100本勝負 46本目
 念願?であった京都の誠光社へ行ってきました。予想通り素敵な本屋でした。品揃いは独立系の書店の中でも多いとはいえません。しかしながら限られたスペースの中で書棚は個性的で本好きの心をくすぐります。隣のカフェ、アイタルカボンも素晴らしい。買った本を豊富な種類のエスプレッソ共に。至福の時間となることでしょう。

 岩波ブクレットを揃える書店は少なくないと思いますが、限られたスペースだからこそ目立ち手を伸ばしました。表紙が見えるように配置されたいたことも選んだ理由です。特別ナチズムに興味がある訳ではないですが、ナチ政権を評価する面があることは何となく耳にしていたので、一度しっかりと実際の様相を自分なりに理解、消化したいと思い読み進めました。一般にナチ政権の評価される点として脅威的な経済回復と失業対策の成功、アウトバーン建設、有給休暇の拡充、大衆車としてのフォルクスワーゲンの配車などが挙げられますがその全てが大きな犠牲を伴っていたり、中途半端にしか実現されていなかったり、全く実現されなかったりしなかったことを知りました。共著者の一人である田野氏は旧Twitterで「三十年くらいナチスを研究しているけれど、ナチスの政策で肯定できるとこないっすよ」とツイートしたところ炎上した経験を持つそうです。このブックレットでは旧Twitterのような物言いは相応しくありませんから、かなり慎重な書き方をしています。当然といえば当然ですが、ちょっと歯切れの悪さも感じ、それが少し不満でした。またナチスの政策を検証する際、特に経済対策について「ナチスのオリジナルではない」という記述が散見されます。オリジナルではない=良いことではないという論理のように思われますが、この点については賛同できませんでした。しかしながら幾つもかの検証を通してやナチスの特殊性、悪行についてもよく知らないことを痛感しました。本書の価値は良い点とされるナチス政策の裏側を明らかにすることで相対的な思考が可能になるだけでなく、ナチスの取った信じ難い政策について知ったり、考えたりする契機になると思います。個人的にはドイツだけでなく、ヨーロッパ全体に見える反ユダヤ主義についてもっと知りたいと思いました。

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