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【書評】乳と卵(川上未映子 著 文春文庫)

11代伝蔵 書評100本勝負34本目
 間もなく京都での生活が終わります。そこでいつもの本屋(大垣書店京都駅ビルザ・キューブ店またはくまざわ書店四条烏丸店)ではなく、丸善を冷やかすことにしました。梶井基次郎先生にも敬意を表さねばなりません。
 長期滞在しているサービスホテルからテクテク歩くこと30分。9月に入ってからも厳しい残暑?が続いておりました。しかしその日はぐっと涼しくなって前日比-10℃です。半袖のTシャツでは少し肌寒く感じるほどでしたが、テクテクしていたら体温もいい感じに上昇します。到着すると商業ビルの地下B1とB2が丸善です。まずはB2の丸善カフェで喉を潤し、捜索開始。専門書や洋書も充実しております。ただ今日の気分は「小説」だったので、B1の文庫コーナーに移動しました。事前に「関西弁の小説」を調べていました。谷崎潤一郎の「細雪」あります。そしてそれに続いて「川上未映子」がラインアップされておりました。だからもし「川上未映子」に呼ばれるようなことがあれば、それを買おうと何となく決めておりました。基本あんまり女流作家は読まないんですけど、川上未映子は何冊か読んだことがあって、好印象でした。ただ「彼女は東京出身のはずだけどなあ」と思い、逆に興味をそそられておりました。そして文庫本を求めて最初のコーナーを曲がり見上げるとその川上未映子の「乳と卵」が数冊並んでいたわけです。横のポップには「芥川賞受賞作品」とあります。「芥川賞受賞作品」にあんまりいい思い出はないのですが、まあ「呼ばれた」と言ってよい状況ですから買い求めてホテルに帰って早速ページを捲りました。まず疑問に思ったのは僕の読んだことのある川上作品とはあまりにも文体が違うということです。そこでちょっと調べてみると僕が読んだことがあるのは、「川上」は「川上」」でも川上弘美でした(苦笑)。「女流作家」「芥川賞作家」以外は共通点はなさそうです。
 以上のようなミステイクがありましたが、川上未映子は弘美以上に好みの作家でした。主に口語部分で関西弁を巧みに使いながら、物語は進行していきます。一文がとても長く、それは前述した谷崎潤一郎の「細雪」を彷彿させます。関西弁を使うと会話文だけでなく、地の部分も口語的になりますから、一文が長くなるのでしょうか?谷崎の文体同様読みにくい感じは全くなく、心地よいリズム感のある文体です。東京出身の谷崎が関西移住後に関西弁の小説を発表したのに対して、川上未映子は関西出身ですから、より自然体で書いているように感じられました。内容としてはやや予定調和的なところもありますが、文体が個性的ですから、その展開は陳腐には感じませんでした。巻子や緑子の刹那さも伝わってきますし、「わたし(おそらく夏子)」から緑子に時々映るのも読み応えがありました。ただ、文庫本にして100ページの小説で筆量はやはり物足りない。巻子と緑子親子のそのごの関係も気になるし、そこに「わたし」がどう絡んでくるのかも気になります。本書の帯には「世界が絶賛する感動の長編『夏物語』の原点」とあります。それなら次には「夏物語」を手にとってその力量を堪能させて頂きましょうか!

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