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7・13 オカルト記念日・ナイスの日

首の無い人を見たことがあるんだ。

F君は天気予報を見ながら、何でも無いことのようにそう言って、朝ごはんの目玉焼きの目玉を綺麗なフォークの先で潰した。

それは、お化けってこと?

私は冗談だと思ってそう訊いた。
まじめ一辺倒のF君が冗談を言うときは、こういう笑えない冗談じゃないかと薄々想像していたからだ。

いや、そういうんじゃなくて、物理的に首がないんだよ。
いるんだね、ああいう人。

そう言ってベーコンの脂身を器用にフォークの先で避けている様が何だか奇妙なことのように思えて怖くなってきた。

え、冗談だよね?

胴体だけで歩いている人間がそこらあたりにいるわけが無いだろう。
冷や汗を止めるために、私は皿の上でアスパラにベーコンを巻いて、ソースをつけて口に運んだ。

何をそんなに驚いてるの?

だって、首がない人だよ?

うん、そうだよ。
よく見れば意外と居るのかもしれないとも思うけど…。

そう言ってF君は全ての皿の食べ物を綺麗にお腹に収めると、御馳走さまと手を合わせて食器を片付けはじめた。

私は背筋が寒くなって、それ以上ご飯が喉を通らなかった。

一日中首の無い人のことが頭から離れず、私はついにベッドの中でその事についてF君に打ち明けた。

首の無い人のことがそんなに怖い?
太りすぎたらそういうことだってあるでしょ。

え?

それよりその話って、本当に今じゃなきゃ駄目だった?

もう服を脱いでいた私たちの間に、じめっとしていながらも滑稽な空気が密度を増して入り込み、気まずくなってしまったのでどちらからともなく身体を離して服を着て眠りについた。

私は首無しが頭ごと無いのだと解釈をしていたので、もちろん私の勘違いであったことを認めつつも、その日の夜は、今後F君と上手くやっていくことができるのだろうかと真っ暗な天井を眺めながら考えることをやめられなかった。


7.13 ナイスの日、オカルト記念日
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