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5.2 緑茶の日

あともう少しで日本に帰る。
シンガポールのチャンギ空港、F55ゲート前でアイスコーヒーと言う名の甘い飲み物を飲みながら、私はゲートが開くのを待っていた。
辺りの椅子にもインドやアラブ、中国など多国籍の人々が談笑したり本を読んだりしながらその時を待っていた。
カヤトースト屋さんで頼んだアイスコーヒーは、もれなく砂糖とミルク、いや、練乳だろうか。とにかく甘いミルクコーヒーとなって出てきた。
美味いが、甘い。
とにかく大きいそれを赤いストローで飲みながら、遠くまで来たものだなと思った。
毎日三十度近くあるこの国では、これまでの海外旅行に比べて終始リラックスして過ごすことが出来た。
人は皆優しく温厚で、サービス精神も旺盛である。
大型連休のため日本人を見かけない場所はなく、辺りには日本語や日本語表記に溢れていたので、うっかりすると日本のテーマパークに来たような気持ちになった。
ご飯も美味しい。
チャイナタウンで食べたシンガポールチキンライスは、有名店のそれよりも柔らかく旨かった。
私は、自由な気持ちでこの国を旅した。
そして毎日のように、この自由さの元は何であろうかと考えた。
帰り際になって、今なら何となく分かる。
日本と違い、相手が自分をどう思うかを考えなくて済むからだ。
ちょっと嫌な顔をしているのではないか、今迷惑そうではなかったか、気遣いの常識化や強要に近いものが、この国には無いように思えた。
日本という島国で、私は緊張していたので思い知る。
搭乗ゲートが開く時間が迫り、人々が列をなしはじめる。
私は飲み終えたプラスティックカップをゴミ箱に捨てて、その列の最後尾に並んだ。
帰るのが寂しいのは、初めてかもしれない。
それでも目が覚めて日本に帰り着いた時、成田空港の寿司屋で熱い緑茶でも飲みながら、やっぱり日本もいいなと思える自分であればいい。
さようなら、シンガポール。

5.2 緑茶の日
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