「風呂」

なるべく遠くの水面を叩くと「バシャン!」と音がする。放った力が100%伝わる感覚がした後、すぐに体がふわっと浮いた。アメリカを再現したオープンワールドのゲームのビーチ似ている景色の中で、かなり沖の方を僕は泳いでいた。
 これは夢だ。第一に僕はクロールが泳げない。唯一溺れない泳ぎ方は平泳ぎで、これも得意というわけではない。そんな僕が意のままに海を泳いでいる。いつ終わるかもわからないがこの夢を楽しもうと思った。
ふと誰かに呼ばれる。行かなければいけない気がする。ついていこう、と思った時には体は空中に浮いてスーッと滑らかに移動していた。「あそこから帰るよ」そいつが指さした先には窓が空いた民家があり、風呂場がのぞいていた。ここが自分の家でないことは間違いない。ものは試しだ、したがってみよう。見様見真似で他人の家の浴槽に降り立ち、お湯の中でくるっと一回転してみる。すると自分の家の風呂場らしき場所に帰ってくることができた。

これはただの夢だが気づいたことがある。
水中で一回転することについての恐怖だ。幼い頃はこの動作が怖かった気がする。夢というのは恐怖と葛藤を理解するために脳が作り出すみたいなことをどこかで読んだ。恐怖を想像力でおもしろおかしく解釈してくれた私の脳に感謝したい。

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