しっかりと傷ついて得られるもの

昔、私が25歳頃の時、ある人から “傷つくならしっかり傷つきなさい”と言われた事がある。その当時の私は、今以上にプライドが高く、自信があり、怖いもの知らずだった様に思う。ただ、それは無知と背中合わせのものだったし、本気でぶつかる事、外の世界に自分をさらけ出す事をどこかで逃げながらようやく保てていたものでもあった。 “何も知らない”という事は時に恐ろしいが、知る事によって自信が失われる場合もある。人生はその辺が厄介だと思う。

上記の言葉は今でも時折思い出す言葉の1つで、何か自分の人生にとって重要な、どうしても避けては通れない局面に相対した時、自分に言い聞かせている大切な言葉でもある。 “傷つくならしっかり傷つきなさい”という言葉の真意は、言い換えれば “相手(対象物)に本気でぶつかれ”という意味だと私は理解している。もちろん人間は傷つきたくない生き物なので、いつもいつも本気でぶつかる必要も無いし、時には逃げる事も必要だとは思う。ただ、そう多くは無いであろう、人生の重要な局面で下手に避ける事をしたり、変にかわす事を覚えると、気付かないうちにそれが癖になり、次第に繰り返す様になる。それで当人が傷つく事は確かに避けられるが、その代わりに人生において最も身に付けたく無いものの1つを身につけてしまう、と私は思う。それは何かというと “後悔”だ。それはワインの澱のように少しずつ溜まり、その人を蝕んでいく。

私自身の経験からしても、まず試合に出てみてボロ負けした時、本気で何かを表現した時、自分自身でリスクを負って大失敗した時、そういった体験は数多いが、そんな時は結果がどうであれ、後悔が全くないのを実感している。もちろん本気でやっているので失敗すると傷つきはするが、自分の中に納得感が残る。またやってみて初めて自分の実力を客観視でき、次に何をすれば良いか、が見えてくる場合も多い。シンプルに実力不足である事がはっきりと分かる。

例えば本当は世界一周をしたい、と思っているのに情報収集に逃げていないか、本当はテニスの試合に出たいと思っているのに、1人での壁打ちに逃げていないか、本当は英語で会話したいと思っているのに、机上での文法勉強に逃げていないか、本当は自分の店を出したいと思っているのに、修行という言葉に逃げていないか。世の中はそういった人達で溢れているのは知っているが、私自身はそういった事に出来るだけ自覚的に人生を歩みたい。そして、傷つく時にはしっかりと傷つく選択をしたい。


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