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映画へGO!「高野豆腐店の春」

(※多少のネタバレあります)
一見なんの変哲もない日常を描いたファミリードラマのような映画。
ジェットコースターのような展開のインパクト重視ムービーに慣れていると、逆に新鮮であり、いつまでもずっと観ていられる安心感がありました。

ただし、それは決して退屈であるということではなく、むしろスクリーンに現れるひとつひとつのシーンを味わえる映画的な幸福感に包まれた、心地よき作品でした。

主人公となる親子のキャスティングは、藤竜也と麻生久美子。これ以上にない流石な選択です。
80歳を過ぎて、三枚目に近い役柄がさらに上手くなって、面倒なジジイの心の機微を本当の自分の人生のように演じていた藤竜也には、終始胸熱な共感感情を抱けたのと、いろんな苦労を経て、芯の強い気丈な女性に仕上がった美しい娘を演じる麻生久美子も、他に変わりが思い浮かばないほど役にピッタリハマっていました。本当に映える魅力的な女優さんであることを改めて確認です。

舞台となるのは尾道。私自身も何度か旅行で訪れたことのある大好きな町でした。

ので、設定そのものが自分としてはホーム・アウェイで言うと、ホーム。
すんなり感情移入がしやすかったというだけでなく、このように日常の風景を生き生きと描かれると、自分も自分の人生においては、それを作品として捉えれば、物語の主人公を演じられるのではないか?とふと思わせてくれるような、何とも説明しにくい不思議な魅力のある映画でありました。

加えて尾道流れで言うと、藤竜也を取り巻くの地元の仲間たちが使う方言(広島弁?尾道弁?)が非常に味わい深かったです。

いや・・味わいということに留まらず、そのテンポのよいやり取りが、映画のノリやリズムを生み出していたのは、作品としての大きなチャームポイントのひとつだと言っても過言ではありません・・。

やはり尾道は映画の神様が微笑む町でしたね。

物語としては、父と娘の心が通い合い、すれ違い、そしてまた通い合う様が丁寧に、かつ適度なテンポで描かれながら進んでいきます。
とはいえ、”なんの変哲もない日常”なんて冒頭に書いてしまいましたが、物語の最後には、ちょっとショッキングな事実が明かされ、心地よくスクリーンを眺めていた我々は、ここでハッとさせられます。「えっ、そうだったの・・・」と。

つまり、父と娘がお互いの胸にずっーと長いこと秘めたまま、でも確認しないといけない想いがあり、それを言葉にして表現し合うのがラストシーンになるわけです。余計なレトリックや演出もない素敵なシーンだったと思います。

そしてそのままシンプルにエンドロールを迎えるのでした。

個人的評価:★★★☆☆
とてつもない名作というわけではないのですが、ほっこりと寛ぎながら楽しむという自然な映画体験ができました。
いい気分で映画館を後にしましたが、意外と貴重なことかも。
上手にマーケティング・PRされた映画に世の中溢れている中、愚直にその逆を行ってる感じが応援したくなります。

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