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映画へGO!「市子」

(※多少のネタバレあります)
杉咲花演じる、抱えきれないほどに重たく暗い過去を背負った主人公の女性。
本当に普通でささやかな幸せを手に入れられそうになったところで、それもするりと逃げていってしまう。。
彼女が何者であるかを描いたヒューマンドラマなのですが、時間を遡りながら、闇の奥に隠れた事実を少しづつ明らかにしていくミステリーのフレイバーもあり、とても見ごたえのある映画でありました。

まずとても感心したのは、撮影の巧みさでした。
説明がなんとも難しいのですが、映像の切り取り方・撮影技法・構図・長さなどのビジュアル演出を構成する様々な要素が、監督や演者の意図を非常に的確に捉えているような気がして、観ていてストレスがなく、素直に感情移入できます。
併せてロケーションの選定もとてもセンス良く、ハッピーな映画ではないものの、全体として気持ちが逸れることのない、心地良い映画体験を味わうことができたのでした。

杉咲花が作り上げた、やさぐれたところとピュアなところが入り混じった人物像は、過去が明らかになるにつれてどんどんリアリティが増していく一方で、その恋人役である若葉竜也も、やるせない心情に駆り立てられた演技だけでなく、醸し出す存在感そのものも素晴らしかったです。
ミステリアスな杉咲花に併走しながら、映画全体のムードをぶれずにリードしてくれていた見事な役者だと思いました。

自分にとってのクライマックスは、若葉が杉咲に結婚をプロポーズするシーン。
同じ映像が冒頭と最後で2回スクリーンに登場するのですが、見え方・感じ方が全く違うようになっています。その間に描かれた主人公の壮絶な人生を知ってしまった最後の方では、あまりに幸せなやり取りや表情・感情を見れば見るほど、涙が止まらなくなります。
幸せな情景を丁寧に描くことで、逆にその裏側に潜む悲しみの重さが伝わるという、とてもエモーショナルなシーン設計だったのでした。

で、結論から言うととても好きな映画だったのですが、唯一気になったのは・・主人公が妹を殺めてしまう衝動や動機がもう少し表現されていると、人物造形により説得力が増したかもと思った次第です。
でも十分に名作です!

個人的評価:★★★★☆
妻に誘われて鑑賞したのですが、観に行って良かったです。
本文で触れてませんが、音楽やSEも素敵でしたし、杉咲花が身に纏った黒い衣装も象徴的でした。すごく細部まで練られた映画ですね。



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