鑑賞ログ「最後の決闘裁判」

211104@TOHOシネマズ日比谷

アダム・ドライバーと『フリー・ガイ』のジョディ・カマーがという出演陣とリドリー・スコット監督作というのが興味の入口。そして、ハリウッド版「羅生門」と言う前評判に俄然興味が出た。久しぶりだな、マット・デイモン(正直なところ彼にはそこまで惹かれなかった)。コスチュームものというのもいい。

実際に西洋であった裁判の判決を決闘の結果=神の意思に委ねるという「決闘裁判」をめぐる物語。14世紀のフランスを舞台に、元は親友だったふたりの男(ジャン=マット・デイモンとル・グリ=アダム・ドライバー)が、ジャンの妻のマルグリット(ジョディ・カマー)へのレイプをめぐり対決する。そこに至るまでを3人の視点から描く。

顔に傷があり乱暴者の不器用なジャンと、聡明で主君ピエールの遊び仲間でハンサムと評判のル・グリ。そして、ジャンの妻マルグリット。作品を通して感じるのは、結局ジャンとマルグリットの物語だと言うこと。マルグリットはどうなのか、とかフェミ的に色々と言われているらしいけれど、これは一組の夫婦の物語で、どこにも正解というか、真実はないと言うこと。もちろん、親友だった二人が袂を分つまでも描かれる。そこも含め、視点が違えば真実は複数あるんだなと思った。

美術館や美術展に行くたびにふと思うことがある。黒い瞳の私は、この絵(例えばモナ・リザの絵)を、この絵が素晴らしいと評価してきた青い瞳の人々と同じ色で見ているんだろうかと言うこと。瞳の色が違うから、きっと色は少し違うんだろうな。でもそれを確かめる術はどこにもない。どう感じているかは本人にしか分からない。同じ絵を見ていても、感じ方は千差万別で、その人の中にしかその絵から受ける感動はない。それは絵に限らず、この世の全ての色がきっと違う。でもそれは誰にも証明できない。そんなことをこの作品を観ながら考えていた。

作品全体で色味が抑えられているのもいい。コスチュームもセット(多分CGも多いんだろうけど)もいい。私の好みに刺さりまくる連続。レイプのシーンの演出は息苦しくなるほど残虐。最後の決闘シーンも生々しく、近くに座っていた女性は目を覆っていた。自分でもびっくりしたのは、冒頭と最後でまんまと応援している側が違うこと。前情報をチェックしないとこういうことになるんだな。演出ってすごい。深いことを考えなくても、物語を追っていけば決闘シーンは迫力がある。スクリーンで観れて良かった。

3人の視点でそれぞれ描かれるのは、真実である部分の一部と、自分はこうでありたかったという願望と、相手はこうだったという解釈の3つ。そのうちの後者2つがすれ違うから物語が生まれる。切ないのは、乱暴者のジャンの視点が最初に描かれ、実はそうじゃないといった感じでル・グレとマルグリットの視点が展開されること。ジャンの視点は真実じゃないの?人付き合いが苦手な自分としては、ジャンに一番肩入れしてしまうんだが…。

俳優陣はみんないい。ずっとしかめっ面のマット・デイモン含めて。ジョディ・カマーの抑えた演技が特に良かった。誰からの視点でいつ笑顔を見せるのか。それがそれぞれの真実ということなんだけれど。自分が受けた仕打ちを訴え出ることを、まさかの人間たちに足を引っ張られる。そうやって生きていくことが女性としての務めだと。反吐が出ちゃうな。そして、自分は正しいことをしているはずなのに、君主のピエールには疎まれるジャン。正論は世渡りの武器にはならないということが強く示されるのが苦しい。ジャンは彼なりの愛を示していたと思う。もちろん、マルグリットがいうように、男としてのプライドもあるんだろうけれど。不器用なんだよ、ジャン!!コミュニケーション能力が世渡りには必要。やっぱり私はジョン派なんだろうな。世渡り上手くなりてぇ。

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