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【読書感想】印象が正反対の歴史人物!? ~異なる著者の読み比べで深める人物像~ 『ハプスブルクの女たち』『名画で読み解く ハプスブルク家 12の物語』

創作活動の資料集めで読書や映画鑑賞に夢中になっている世界史マニアの さわな です。

マクシミリアン1世に惚れたことがきっかけで、ハプスブルク王朝についての書物を読み漁っています。
今回取り上げる二冊を読んで、面白いことに気づいたので、クローズアップして記事にしました。
(マクシミリアンに惚れるきっかけになった映像作品に関するnoteはこちら:note「中世ヨーロッパの世界観の参考に!『最後の騎士 マクシミリアン 権力と愛の物語』を観た感想」参照)



ハプスブルク家の女たち (講談社現代新書)

ハプスブルク当主の妻や母、娘達が主役で、彼女たちの人生を描いた本。

同著者のハプスブルク通史も読んだので、主人公を女性に置いたという点で興味深い作品だった。女も女としても闘いがあると感じずにはいられない。

ただ、女性軽視と思われる表現があるのが残念。本書で扱っている時代も女性が軽視される時代、著者の世代や時代背景的にもしょうがないかなと思って理解できた。
それも著者のハプスブルク愛の深さを感じられるので、そこまで深いにはならなかった。


名画で読み解く ハプスブルク家 12の物語 (光文社新書)

ハプスブルク家の人間またはライバル家門の人間の肖像画や歴史画をもとに、絵の主役となっている人物の人生や人間模様が述べられている。絵画の解説も興味深い。

絵画が好きなので、絵画のモデルとなった人物の人生や歴史背景が知れて良かった。本を読んでから絵画を眺めると感じ方が変わり、人物が寄り身近に感じられた。絵一枚だけで、いろんな想いが巡ってくる。不思議だ。

個人的に興味深かったのは、マリーアントワネットに対する次の一節。

結婚といい死といい、彼女はなぜか肝心のところで、本来は別の人間に与えられるはずのものを、受け取ってしまったのでは ないか……。

本文中より引用

彼女の結婚話も本当は姉のもので、亡くなった姉のかわりにルイ16世に嫁いだに過ぎないと言うのが運命のいたずらに憎さを感じてしまう。そして、彼女がギロチンの露に消えたからこそ、彼女に想いを馳せてしまうのも皮肉である。高慢で浪費家で勤勉ではない彼女は、彼女の自身の魅力で歴史のヒロインにはならなかったと思う。


書類王と呼ばれ、自ら外交や軍事遠征に赴くこと政務によりスペイン領と植民地を支配していたフェリペ二世も興味深い。

この本を読むまでは同じ肖像画を見ても「彼は何を考えているんだろう?」と得体の知れなさを感じるだけだったが、改めて絵画を見ると彼の複雑な内面が感じられた。
人を殺すのも紙一枚。異端審問で多くの反カトリックの人間を葬ったと言う彼には血なまぐささが漂う。
イタリアと同じ南国なのに、スペインには陽気さがない。スペイン・ハプスブルクの肖像画はどれも暗い影を落としているように思えたのが、その理由がわかった気がした。
かつては異教徒に(イスラム教)に支配され国土を取り戻したスペインが厳粛なカトリック国家となったのも無理はない。王族の彼らにはどこか冷徹さやもの悲しさを感じる。レコンキスタ(国土復興運動)により異教徒(イスラム教徒)とその文化を一掃したせいか、荒れた大地の乾燥した風に晒されたせいか。

人物背景と彼らが生きた時代を知ると、名画をより深く味わうことができる。


ナポレオンの妻、マリー・ルイーズについての記述の違い

絵画好きのため、後者の紹介が長くなってしまったが、ここで本題。

マリー・ルイーズに対する記述が両者で異なっていたのが興味深いので取り上げる。(ドイツ語名、つまり生家での命名はマリア・ルドヴィカ。ウィキペディアでは”マリー・ルイーザ”表記。のちに与えられたパルマ領主の称号が書かれている。嫁ぎ先の国や時代の流れに伴って、名前の読み方・記述、肩書きが変化するのが西洋史の難解なところ)


この人物に対する評価が前者と後者の著書で異なっていたのが興味深かった。
前者「ハプスブルク家」は男性、後者「12の物語」は女性が著者だ。


後者、「12の物語」では、

『子を捨て、奔放で自分のことばかりな女。夫が流刑されたら別に男を作って庶子を産んだ』と低評価だった。

一方、前者の「ハプスブルク家」では、

『嫌々結婚させられたので夫に対する愛なんてなかった。ナポレン派の人間に皇后を担ぎあげ、ナポレオンの息のかかった勢力が増大されたら困るから、監視のためにもお相手となる男性があてがわれた。子供は同じくナポレオン派に担ぎ上げられないようにウィーンの宮廷の奥深くに幽閉し、母子は引き離された』のように、仕方がなかったと語っている。


個人的には女性は女性に厳しいと感じているので、いくら弁明しても不義があった時点で切り捨てられるのは当然と感じた。
ハプスブルク家の思惑で母子切り離され別居生活となっても、力尽くで子供を守らなかったから母親失格。加えてナポレオンが流刑罪で島流しに遭っている時、夫存命で離婚もしていないのに彼女の身辺を守る伯爵と通じていたのはなんたる不義!
女性の著者の主張はこのような感じ。厳しい評価を感じた。

男性視点で女性を描くと、女性の著者とは違う視点が得られて興味深い。
女性に甘いと言うわけではなく、男性は現実主義であまり感情に左右されないと感じている。
男性の著者はあらゆる状況を鑑みても仕方がなかった。当然のなりゆき。むしろ、男をあてがわれて口説き落とされ、身動きが取れないようにされた。と、被害者はマリー・ルイーズの方なのかな?と感じる記述だった。


歴史の真実は伝える人、見る人によって変わる

歴史というものは、見る人の心を映すというか、視点の人間の価値観が見えてくるなと感じた。

歴史研究のいろんな人の目が加わって、人物像ができあがり、それを私たちが感じているに過ぎないと考えると、書いていることを鵜呑みにするのはよくない。
ひとつの著者ばかり読んでいると、考えが偏ってしまう。ひとつの事柄に対して、多角的に情報収集することが大切だ。
選り好みしているうちに自分の考えが偏ってしまうかもしれない!

ただ、歴史人物や歴史的出来事は過去のもので、伝記や文献に頼るしかない。
いったい、生身の彼らはどんな人間だったのか、思いを馳せたくなる。

歴史上の人物が語ったとされる言葉は創作だったりするし、プロパガンダのために壮大な伝記が作られているのだろう。劇作家が誇張して書いた物語が史実と認識されているのかも知れない。彼らはきっと、現代風に置き換えれば街ですれ違うようなありふれた人物なのかも知れないし、英雄ではなく劣悪非道な悪魔なのかもしれない。

歴史って過去のことなのに、想像力も働かせられるし、今存在しないものだから、興味も尽きない。
本を読む度に冒険の世界に誘われる。
本を読む度にお気に入りの一冊に出会い、宝物が増えていく気がする。

今日はどの時代を冒険しようか?




最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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これからも創作活動の糧として鑑賞した作品や本などを自分なりの知見・発見と共にしていきたいと思います。



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