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わがままな巨人


オスカー・ワイルド

オスカー・ワイルド ショートコレクション 幸せな王子
金原瑞人 訳/ヨシタケ シンスケ 絵

タイトルにもなっている「幸せな王子」は言わずと知れた絵本の名作の一つでもあるので、知っている方も多いと思います。
自己犠牲によってもたらされる他者の幸福、温かくも哀しい物語。
生前に知ることができなかった他人の貧しさに心を痛める王子の像と、その王子のお願いに真摯に答えるツバメの話。
貧しい人々に所持品をあげてしまう過程で目を失ってしまう王子に寄り添うツバメの優しさに心がじんわりする。
私も子供の頃に読み聞かせてもらった記憶があります。
ハッピーエンドが好きだったのであんまり好んで選ばなかったかもしれない。
しかし大人になって読み返すとオスカー・ワイルドの作品はどれもファンタジックで詩的な表現が多く文体が華やかです。
儚くて、物語が終わった後のなんとも言えない哀愁感がお気に入り。
わがままな巨人もそんな作品の一つだと思います。
宗教色が強く出ていて、苦手な方もいるかもしれませんが私は意味不明なところも好きです。作家ってちょっとクレイジーなくらいがインパクトあってちょうど良い。持論。

あらすじ

子供たちの遊び場となっている大きな庭。
昼下がりになるとたくさんの子供たちが遊び回って賑やかな声があたりに響き渡ります。
そこは色とりどりの花や秋になると実がなる木、美しい小鳥の囀りが聞こえる楽園のような庭。
しかしその庭の所有者は巨人です。
彼はコーンウォールという場所に友人を訊ねていたため長らく不在でしたが、7年の時を経て帰ってくると子供たちが自由に遊び回っている光景にびっくり。
「ここは俺の庭だ」と、怒った彼は立て看で「無断で立ち入った者はひどい目に遭わせるぞ」と注意喚起をします。彼はわがままな巨人なのです。
怖がってしまって子供が寄り付かなくなってしまうと。たちまちその庭は、寂れてしまいます。
子供たちの声が聞こなくなったために小鳥も鳴かず、花も咲かない永遠の冬が来てしまうのです。

数字の意味

物語の主人公巨人の庭には12本の桃の木が植わっています。
草花も生い茂っていて、巨人の留守の間は子供たちで賑わっているようです。巨人は7年もの間コーンウォールに住む人喰い鬼のところに滞在していたらしいですが、7年もいるとお話することも尽きたらしく家に帰ります。

色々つっこみどころがありますが、12という数字はキリストの十二使徒、7は神が大地を創造した七日間を示しているのかな、と推測。
宗教色を全面に押し出している雰囲気が伝わります。

愛の傷

作中に出てくる小さな男の子の正体はキリストと読んで間違いないでしょう。物語の終盤で、手足に傷があるのを見つけた巨人が、この傷は一体誰にされたのかと怒ります。
その時の少年の返しが「これは愛の傷」だと言います。
愛の傷とは自己犠牲を意味するのでしょうか。キリストは自らの死を以て人々を救済しましたものね。
少年もまたキリストと同じように誰かの罪を自分が傷付くことによって救ったのだと推測できます。
この場合の罪とは、自己中でわがままで自分のことしか考えられなかった巨人の心が招いた行動に対する罪でしょうか。
巨人は反省して子供を庭に迎えいる事ができたのに、罪そのものは消えない。
罪を償うことが出来る、或いは裁けるのは神だけという解釈をするなら実にキリスト的だといえます。

最終的に巨人は老いて死を迎えるのですが、天にある少年の楽園の庭に行く事になります。
無事に罪を清めてもらって天国に行けたというオチですね。

釈然としない物語なのは私が耶蘇教じゃないからなのかな。大人であるなら行動に対する責任は自分に帰属すると感じるのは私が信者ではないからか。
まあ疑問点は残りますが、ストーリーとしてはあたたかく良い話だったので感想としてはぐだぐだですが公開しておきます。

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