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いい病院・医者はどこに?(その6):二人部屋を選んだ事を後悔する

2023年の夏頃に、卵巣脳腫が再び大きくなっている事が発覚し、急ぎではないが手術が必要になった。

その日から、医者・病院の選定、保険適用の有無の確認、予算のやりくり(合間に、息子の学費を支払い、引っ越しも終わらせた→予算ぎりぎりに)、そして、少ない友人の中から何とか付添人を決めた。

付添人を決め、日程を1月の第一週に決めたところで、事前検査が終わっていなかった事が分かり(予定していた日にその病院で検査すると思い込んでいた)、慌てて(ほぼ)全ての事前検査を一日で終わらせ、何とか入院までこぎつけた。



手術前日に入院となっていたが、その日は仕事で外出しており、病院に到着したのは21時だった。

受付で「入院予定の3Kですけど」と言うと、受付の若い男性はモニターを確認し「207ね。エレベーターはそこだよ。」と言うので、(もう部屋割りも決めてあるんだ。中々手際が良いじゃん)と思いつつ、部屋まで行くと、鍵がかかっていた。

・・・おや?

スタッフの一人にお願いして部屋を開けてもらうと、不思議そうな顔をした男性が一人出て来た。

お互い(んん?)と言う顔で見合わせたが、どうやら受付の男性が、私の事を出産祝いに訪れた訪問客だと思ったらしい。「いや~名前似てるからさ。」と言われたが3Kの「3」、つまり最初の一文字以外は全部違うよ。。。

再び受付まで降りて、入院手続きを開始したが、「一人部屋?二人部屋?どっち?」と聞かれてものすごい迷った。

今回の見積もりは約13万ルピーで、保険の事前承認により、約8万5千ルピーは承認済みである。差額は、退院時に再度査定の上、最終承認が下りる。だから今の時点ではどのくらいまで保険でカバーされるかはまだ分からない。

最大限に保険が適用された場合は、自己負担は1万~1万5千ルピー程。(これは手術の内容にかかわらず、被保険者が最低限負担する金額。)

怖いのはこの差額だ。

手術は常に予想外。手術してみて初めて発覚する事もある。命が助かるのが最優先である事はもちろんなのだが、最終金額がいくらになるかは誰も事前に確定はできない。

部屋のグレードはこの時点で唯一節約可能な項目である。一人部屋と二人部屋の差額は1万ルピー程度だが、この1万ルピーがどこでどう響いてくるかが分からなかったので、ビビった私は、二人部屋を選択した。

すぐに後悔する事になるのだが。。。



部屋に通されると、既に先客が奥側のベッドにいた。カーテンで仕切られていて全員は見えなかったがどうやら3名いる。

・・・・んん?男性もいる??

そう。すっかり忘れていたが、ここは産科婦人科なので、当然、妊婦産婦の夫や(義)両親もいる。インドでは、付添人が原則24時間一緒にいるので、部屋の中に見知らぬ男性がいる(仕切りはペラペラのカーテンのみ)、と言う状態が発生する。

そう言えば息子を産んだ時は、日本の病院で6人部屋だった。日本の場合は夫であっても面接時間以降は追い返されていたし笑、産婦と婦人科系の疾患で入院している人は部屋を別にされていたらしいので、この事態が生じる事を全く予想していなかった。

うす~いカーテン(しかも薄いクリーム色。なんか見えそう。。)の中で入院着に着替え(手術前なので下着も脱ぐ)、事前検査の為に体を診てもらったりして、私はどうにも落ち着かないが、他は誰も全く気にしていないらしく、私の修行が足りないらしい事を悟った笑。

自分の子供が生まれる瞬間に、彼らだって他の女の存在なんてどうでもよいかもしれないが、こちらの気持ちの問題だ。



ここ数日間、慌ただしくて髪を洗っていなかったので、病院に着いたらシャワーに行かせてもらおうと思っていたのだが、あっと言う間に点滴の管を付けられてしまい、もうシャワーは行けなくなった。

これが入院時の二つ目の後悔笑

手術は明日の8時半なので、そろそろ絶食かと思いきや、23時頃に最後の晩餐ともいうべきサンドイッチが出されてちょっと意外に思った。

手術前の最後の晩餐
野菜の水分でパンがしなしなに。。。でも食べた。

夜中12時に絶食を始めれば、8時間以上は絶食できるのだが、もっとつらく厳しいものだった様な気がしていた。

そうこうしているうちに点滴につながれ、消灯時間になった。

(もう休まないと)と思ったものの、気持ちが昂ってあまり眠くならない。好きなポットキャストをイヤホンで聞きながら、明日の朝の連絡事項や全然関係ない家の雑事等を考えていた。

同室の人達は決して騒がしくなかったが、数時間おきに授乳やおむつ替えで泣く新生児、ごそごそと動く産婦に、赤ちゃんの世話をする家族たちの気配がして、静かに眠るのは無理そうだった。

後1万ルピーを出して、個室にしておけばよかったかなあ・・・?



そんな事を考えながらうつらうつらしていると、付き添い役の友人が「やっほ~、どう?」と、登場した。もう朝の8時だった。いつの間にか眠ってしまっていた様だ。

手術までもう30分しかないので、手短に友人にいくつかのお願いをする。

(元気に戻る気でいるが)万が一の時は、保険金等は息子と娘で半分づつわける事を伝えて欲しい。(夫には分けない)
摘出された臓器を見て、写真を撮って欲しい。
息子の連絡先を教えるので、必要な情報連携をしてやって欲しい。

友人は「任せて!」と頼もしい。

臓器の確認は麻酔が効いている時点で行われる為、自分ではできないので、躊躇しながらもお願いしたのだが(血を見るのがダメな人もいる)、「え、私そう言うの大好き。」と快く請け負ってくれた笑

本当は手術当日が生理予定日になっていたが、それもまだ来ておらず、予定通り手術できそうだ。(生理になると日程変更になる可能性もあったので、ヒヤヒヤしていた。)

本当に色々とツイてるし、守られている。

友人は手術室の前まで一緒に来て「じゃ、行っておいで!!」と力強く送り出してくれた。

ふらふらしながら自分で手術台に上り(手術台は結構幅が狭い上に高さがある)、麻酔医が来ていくつか質問して、バタバタしている記憶はあるのだが、この辺から記憶がふっと途切れた。



手術の開始は朝8時半の予定で、所要時間は約4時間と聞いていた。

私の目が覚めたのはお昼過ぎで、目が覚めた時にはベッド脇に友人の影があり「お疲れ様!気分はどう?」と彼女の声が降ってきた。

眠くて瞼をあげるのがやっとだが、お腹のあたりがじくじく痛み、寒さで体が震えた。

「お腹ちょっと痛い」と言うと、「今、痛み止め打ったらしいから、今、効いてくると思う。少しだけ待って。」と返ってきた。看護師がテキパキと毛布の中にホースの様なものを入れると、温風が吐き出され、その温かさと体のダルさに私はまた目をつぶった。

しばらくして、目が覚めた時は病室に戻された後だった。

激しい痛みは無かったが、ずっと仰向けに寝ていたからか背中がぎしぎしと音を立てそうなくらい凝っていた。お腹のあたりは痛い様な気もするがあまり感覚が無い。排泄ができる様に管がつながれており、これもあって動きづらいが、意識は段々とはっきりしてきた。

この日は金曜日だったので、隣のソファで友人は仕事をしていた。

病室に戻って目が覚めたのは、およそ15時ぐらいだったと思う。手術が終わった後、手術室横の部屋で1時間経過観察をして、問題なかったので部屋に戻ったのだ。

段々意識がはっきりしてきたので、友人に状況を尋ね、こちらの状態も伝える。手術は問題なく終わり、臓器も確認し、息子にも一報入れてくれたとの事だった。

その後、看護師が定期的に点滴と痛み止めを投与し、時々吐き気に苦しみ、時々ウトウトしながら過ごしていたら、気が付いたら20時になっていた。

その間、友人は、私のおしゃべりにつきあい、私が吐きそうな時は背中をさすってくれた。背中にあたる手のぬくもりを感じながら、誰かがいてくれる事のありがたさを感じた。

この頃にはゆっくりとだが、上半身を起こせるようになっていたし、流動食を食べられる様になっていた。手術後の最初のスープは具が入っていなかったが、いつもより一層美味しく感じられた。

それを見届けた友人は家に帰って行った。友人には家族がいるので、二泊三日の間ずっと病院にい続けるのは難しかったのだ。(夜だけ家に戻る。)

本来は付添人も24時間病院にいる必要がある。看護師に友人が夜の間は家に戻る事を伝えると難色を示したので、結局、こっそり帰る事にした。聞かれたら「お茶飲みに行ってる」とか「ご飯を買いに行った」等と言ってごまかす事に笑

幸い経過は良かったし、命に係わる状況でもないので、大丈夫だと判断した。

「ホントに困ったら駆けつけるから電話して。」と颯爽と帰って行く友人を見送り、またベッドに横たわる。かっこいい。

もう友人に足を向けて寝られないが、誰かが困っていたら私も助ける事が彼女への恩返しなんじゃないかと思っている。

結局、私達の心配をよそに、「あれ?付き添いは?」と聞かれたのは一回だけで、「ご飯食べに出ています。」であっさり受け入れられた。

そうやって、手術当日は、風の様に過ぎ去ったのだった。




(過去のnote)
「あれ?」と思ったきっかけ。

一つ目の病院。ほったらかしにされてムカつく。

二つ目の病院。友人から紹介してもらったお医者さん。

手術は確定。セカンドオピニオンを取る。

ついに入院時の付添人が決定!!みんなありがとう。

入院直前。病院で事前検査をするのかと思ったら、自分で終わらせておく必要があったと発覚。てんやわんや。


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