見出し画像

「香水と異臭の関係」に関する記憶。

 雑誌のおまけのような「ミニ本」みたいなものがあって、その中の「ミニ知識」のいくつかが、かなり昔のことなのに、やたらと印象に残っている。

いい香りとは何か?

 例えば、こんな話だと記憶している。

 香水には、インドールやスカトールという成分が含まれています。それは、オナラの匂いの成分でもあるのですが、最初は香水には入れられていませんでした。ただ、すごくいい香りだけだと、ピンとこなくて、そこにインドールやスカトールを入れると、誰もがいい香りと思えるものになりました。人は、自分と関係のないものに反応するのが難しいようです。

 それは、人間が関係を作る時の不思議さみたいなもの。つまりは、いくらいい香りでも、自分の匂いと無関係だと反応できないという不思議さ。実は、人間は人間に最も関心がある、という事実が現れているエピソードとして、自分の中に保存されていた。

 つまりは、ただの花の香りだと、それは、ハチなどにとっては魅力的だけど、人間という別の存在にとっては関係ない、ということなのかもしれず、感覚的な魅力、というものでさえ、関係性と無縁でないのかもしれない、という気持ちにさせる記憶だった。

 同時に、香水の開発者が、様々な試行錯誤をして、「いい香りとは何か」を突き詰めた結果、それとは真逆にあるような臭い匂いを微量に足す、といった方法にたどり着いた。

 それは、少し違うかもしれないけれど、甘味を増すために塩を微量入れる、といった発想と似ているのだけど、それは、実際のモノがどうあるか?というよりは、人間がどのように感じるか?というようなことを重視する発想とも言えるのだろうし、それは、とんでもなく凄いことなのではないか、と漠然と思っていた。

記憶の混乱

 今回、この「インドール/スカトール理論」(自分の造語)を、改めて考えてみようと思って、少しだけ調べた。そうすると、自分の記憶が、自分でねつ造してしまったものかもしれない、と思えるようになった。

 インドールは、室温では大便臭のする固体物質だが、薄めて低濃度にすると芳香が漂う。
 スカトールは、ギリシャ語で「ウンチ」を意味する「スカ(skato)」が語源となった物質。インドールと同じく、薄めるとジャスミンやスミレのような香りになることが知られている。奥行のある香りを演出するために欠かせない存在として、さまざまな香水や香料に用いられているのだ。

 自分の記憶としては、いい香りを製作した上で、完成させてから足りないものとして、インドール/スカトールを入れて、それで「人間との関係」をつくることで、人間にとっての「いい香り」になるというような「認識の転換」のストーリーとして保存されていたのだけど、こうした記述を読むと、自分が自分の記憶をねつ造していた疑念も出てきた。

 インドールやスカトールは異臭に感じるのだけど、薄めると「いい香り」に感じるという、人間の認知が、結構いい加減である、ということの発見に過ぎないのかもしれない、と思えてくる。

 だから、もしかしたら、過去の自分の記憶自体が、すでに間違った情報をもとにしたものかも知れないし、年月が経つ中で、自分の中で、自分が感心したいように、記憶を変えてしまった可能性もあると思えた。

 と考えると、何を得意気に思っていたのだろうと、少し恥ずかしい気持ちになる。

「乳酸」の見られ方の変化

 ただ、同時に思ったのは「常識の変化」の可能性だった。
 それは、「乳酸の見られ方」の変化があったからだった。

 随分と長い間、マッチョで理論派の間では、体内物質の乳酸は「疲労物質」として、ある意味では「悪者」として捉えられていたように見えていた。疲れた時に「乳酸が溜まってきた」という表現も普通にされていたし、その年月は、何十年くらいというレベルで、かなり長かったように思う。

 それが、いつの間にか、その「常識」が、それまでの歴史がなかったように、ほぼ真逆に変わっていた。

 乳酸は、激しい運動をした後に蓄積することから疲労物質とも呼ばれていました。
 最近では、乳酸が作られる過程で発生する水素イオンなどの作用で、筋肉のpHバランスが酸性に傾くことが疲労の一因と考えられています。血液中の乳酸は、肝臓でグリコーゲンに再合成され、再びエネルギー源として利用されます。

 表現は慎重だけど、それまで「疲労物質」として扱われていた「乳酸」が、極端にいえば、「疲労回復物質」として見られるように変わる歴史だった。だから、そんなに劇的に変わるのだろうか、と思ったのと、様々な「常識」は、いつも最新の情報を更新していかないと、本当に間違ったことを信じ続けてしまう、という、怖さを感じた出来事でもあった。

香水への教養のなさ

 だから、もしかしたら、勝手に自分の中で保存していた「インドール/スカトール理論」(造語)も、本当は事実で、だけど、それから年数がたって、その事実自体が、「乳酸の見られ方」のように、変わってしまった可能性もあるけど、その経過を知らないので、どちらにしても、やっぱり恥ずかしいとは思う。

 それに、香水そのものへの馴染みがあまりにもなくて、その「インドール/スカトール理論」(造語)を知った時に感心もしたものの、それから、自分が香水を使うこともなく、香水を積極的に使っている人とほとんど関わり合うこともなく、年月がたってしまったから、詳細も知らないままだった。

 電車の中で、時々、香りの強すぎる人と近くになった時などに意識するくらいで、あとは、最近の「香水」という曲で「ドルチェ&ガッパーナ」が、今有名なんだ、と知るくらいだから、香水への教養があまりにもなさすぎると、気がついた。

 知っていれば、こうした情報への解像度が全く違うのだろうな、ということと、香りは文章では伝えにくいことも、改めて思いました。なんだか、しょぼい結論になり、申し訳ないですが、以上です。



(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。



#香水   #インドール   #スカトール   #香り   #認知

#最近の学び   #乳酸   #疲労物質   #異臭   #毎日投稿

この記事が参加している募集

最近の学び

記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。