【超ss】tie.candlestory-jaune
「昨日は...」
イヴが日本へ旅立ち、数週間が経ったある春の日。
私は空いた時間をいつものように彼に割いていた。
「昨日どうしたんですか?」
彼がイヴに接触禁止になり5年が経とうとしている。
未だ彼の中に愛する彼女の記憶は鮮明だ。
「道端で視線を感じたんだよ。」
5年も経てば、彼が起こした暴力事件なんて、もう風化している。
当時は後ろ指を指されることもあっただろうが、今では彼はただの老いぼれである。
杖をつき、歩く速度もとてもゆっくりだ。
今日のエノワルトの調子はだいぶいいらしく、カフェの向かいの席でコーヒーを啜っている。
体調が悪いと何も食べない。おかげで、だいぶ痩せてしまった。
「...なにか、悪いもの?」
私が怪訝な顔で聞いたのがおかしかったのか、伏せた目が少し揺れた。
「振り返ったら、イヴと同じ色の花が咲いていたよ」
言葉が出なかった。この老人は、死ぬ直前まで愛するイヴの事を言うのだろう。
「花の名前はジョゥンヌといって、日本でも咲いたらしい。その花はイヴが同じ世界にいることを、私に思い出させてくれるよ。」
夕暮れ、世界がまた始まる。
「私はまだまだ長生きしそうだね。」
『tie.candlestory』ジョウンヌ Fin.
ぱぱっと読める作品で、かつ、本編を深められるように、気をつけて描きました。
春はもう少し続きます。
どうぞみなさま、何でもない日が素敵でありますように。
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