独り歩き

 畦道を歩きながら、国木田独歩を読む。足元はすらすらと進むのに、土の柔らかいせいで、なかなかうまく運ばない。常に足元を気にかけねばならばい。犬も連れているので尚更だ。自転車で少しのところも、家は畑の真ん中なので、徒歩でいかねばならない。一つページを繰る前に諦めてしまうのはいつものことだ。そのせいか、一番初めの美しい文章が、常に頭に残っている。
 用水路のあたりでいつも誰かとすれ違う。今日は近所のお婆だ。近所といっても、お婆が一旦腰を休めるくらいの距離はある。制服をほめてくれた。この春から新しい。だから雨はきてほしくない。幸いにしてまだきていない。靴はスニーカーだから土が染み付いている。
 畦から用水路にかけての傾斜に並木がある。木は数える程度で、桜だ。そこだけ厚い芝だから、自分もよく安全に腰を落とす。風が吹いてもまだ花弁は流れない。畑にそこだけの並木だと、どこから見てもどうしても疎らで、ほとんどの時期にはない方がいいと思っているけど、こうして満開になると、そこだけの花に見えないのがいつも不思議だ。
 畦道を出て、車道向こうの自販機でコーラを買った。胸の髪を斜めに屈んで取ると、対岸の向こうでお婆が再び歩きはじめた。

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