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桜は誰と見るべきか

    僕には四つ下の高校生である妹がいるんですが、親がひとつの自慢として語るほど兄妹仲はいいのです。

    その妹と一緒に昨日、花見に行ったんです。写真を撮ったり、撮ってもらったりしながら、ちょうど妹の誕生日付近だったので、屋台でご飯なんかを奢りながら、楽しんでましたが、ある時妹がピタッと立ち止まって「あれ?」という声を発しました。

    なんだ?と思いながら、妹が立ち止まり見てる方向を振り向いてみると、そこには一組のカップルと思わしき男女。その、女の子の方が妹を立ち止まらせた原因らしく、向こうも一拍遅れで妹に気づいたようで、少し驚いた顔をしてました。

    女子特有の姦しい「えーー、偶然!」とか「休みも会えるの嬉しいー!」だのという社交辞令を終えたあと妹が「えっ...もしかして彼氏?」と隣の男の子を指さし聞いたら、その子は頷きました。

    向こうは「え?お兄さん?」と即座に聞いていたので、当然ながらカップルには見えなかったらしい。マスクつけてても、やっぱりなにか似てるのかね。

    ちなみに、そこまで僕と、彼氏くんは蚊帳の外でたまに「おい、どうするよ俺ら?」みたいな気まずい視線が絡んでおります。

    「彼氏いたんだー」だのと妹サイドが盛り上がる中、気まずいのも嫌だったので僕も彼氏くんに「俺らどうすりゃいいんだろうね?」と話しかけて、尺を稼いだ。向こうは、四歳も年上の男相手に少し困っていたようだったが「そうですね」とか無難なことを言ってた気がする。僕が折り悪く金髪だったのも不味かったのかもしれない。

    そんな、軽い会話をしながら彼を観察してなにか話題はないだろうかと思っていたら、なんと彼らインナーが色違いとはいえ同じもので、所謂ペアルックだったのだ。春の陽気で浮かれやがって。

   「あれ?ペアルック?いいねー、高校生!」と、若干のやっかみも含め言うと、彼ははにかみながら「その...一応...クリスマスにあげたんです」だとよ!甘酸っぱすぎて、一瞬空白が生まれてしまった。

    僕は何かしら「やるじゃん」みたいなニュアンスを含んだ言葉と共に、彼の背中を叩いた。何様だ。それくらいのタイミングで、ようやく妹達の会話もひと段落着いたようで、あまり邪魔するのも頂けないので、そこで別れることに。

    妹は友達ちゃんに。僕は彼氏くんにサムズアップを贈ると、再び歩き始めた。そこで妹がため息をひとつ。そして、こんな言葉を共に吐き出した。

「あの子彼氏いたなんて知らなかったよー。いいなー、私なんてお兄ちゃんとだよ?」

    「てめー、僕の何が不満だ」と言ったことは覚えているが、後でふと考えた。桜は誰と見るべきか。

    恋人というものは不思議である。感情なのだから仕方ないとはいえ、一目惚れという言葉がある様に、一瞬で十数年連れ添った家族よりも、その人の心で優先すべき存在になるのである。

    妹にもそんな存在ができると、今まで兄貴と見ていた桜も、そんな存在と見るようになるのだろうか。

    兄と見ていた桜と、彼氏と見る桜の色は違って見えるのか、ぜひ将来の妹に聞いてみたいと思う。

    そして、その上で尋ねたいと思う。桜は誰と見るべきか。

    というか、これただ高校生カップルの初々しさへのやっかみと、妹に痛恨の口撃食らわされてムカついただけの話なんだよね。

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