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ダジャレの奥深さ

私の夫は、よくダジャレを言う。

しかし、私はダジャレに対してどう対応すれば良いのか分からず、ダジャレを言われる度に「こういう時は、どのように返答するのが良いのか?」と尋ねてきた。
 
「どんな反応をするのも自由だよ」と言われてきたため、私のダジャレへの対応力は高まることはなく、むしろ、自然な形でダジャレをスルーするという対応方法が定着した。

もはや、ダジャレを言われても、なかった事のように流すことを無意識に出来るレベルにまでなってしまった。
 
今日、夫と散歩中にダジャレの話になり、具体的に彼がどのような文脈でダジャレを活用しているのかがクリアになったので忘れないよう記しておこうと思う。


ダジャレへの問い

まず、私はダジャレを聞いて、あまり面白いと思ったことがないことが、夫とのダジャレを介したコミュニケーションに課題を生じさせている。
 
私にとっては、会話の中でダジャレがはさまれる必要性が腹落ちしていないので、ダジャレが会話の中に投げ込まれると、流れが中断されたようなインパクトを感じる。

「これは、一体、なんのエッセンスなのだろうか?」と。

ダジャレが韻を踏んでいることは理解できるが、それが面白いとか、会話に何かスペシャルなものをもたらしている感じが、よくわからないのだ。

それよりも、会話の中で、韻に意識が向けられ、さらにそれをダジャレに変換しアウトプットするエネルギーの源に好奇心が沸く。

なぜ、そこまでしてダジャレをはさむのか?
何が、彼を突き動かしているのだろうか?

普通に話がしたい私と、何らかの意図と意思をもってダジャレを言う夫との間には何があるのだろうか?
 

仮説検証


私はこのような仮説を立てた。
 
仮説1
彼は基本的にダジャレを言いたいという欲求を持っているタイプである。

仮説2
彼はダジャレによって場を和ませようしている。

仮説3
彼は、調和を大切にしている。

 
それを、彼に伝えてみたところ、このような回答が返ってきた。
彼自身は、ダジャレが好きであり、場が和んだらいいなと思っているとのこと。

さらに、もう少しメタ視点での回答も返ってきた。
ダジャレを言う人にはこんな背景があるのではないだろうか?と。

①ダジャレが好き
②好きだからダジャレを言いたい
③笑ってもらえると、自己肯定感があがる
④場を和ませようとしている部分はある
 
なるほど。
③の「笑ってもらえると、自己肯定感があがる」は盲点であった。

笑ってもらえると、自己肯定感があがるというならば、私は基本的にダジャレに気づかなかったり、スルーしてしまったり(悪気はない)、笑わないので、ダジャレを言う人にとっては、私とのコミュニケーションは厳しいものになっている可能性がある。(申し訳ない)

※社会人として、外に出た際にダジャレに遭遇した場合は、礼儀作法として「笑う」ということをしているが、これについても興味深い処世術であると思っている。
稀に、平安時代から江戸時代にかけて流行した落首を彷彿させるようなダジャレに触れることがあり、そうした際は、私の価値観に触れる部分であるので素で笑う。(と思う)

さらなる問い

私が彼のダジャレに対して出来ることは、なんだろう?
もっと発展的なコミュニケーションが可能なのではないか?と思い、彼に質問をしてみた。
 
私「林家パー子のように、あなたの発言に対して基本的に笑いまくるというスタンス・スキルを身につけると良いのだろうか?」
 
夫「いや、そうではない」
 
とのこと。
 
ダジャレを言う人にとって、ただ何でも笑ってもらえれば良いというものではないことがわかった。
 
ダジャレを言ったことに対して、ただ笑うのがレベル1だとすると、次なるレベルがあるらしい。
 
それは、ツッコミである。
 
ダジャレに対して、「何バカなこと言ってんの!(ベシッ)」というツッコミを入れる関わりがレベル2(初級)ということだ。
 
レベル2(上級)になると、もっとツッコミが洗練された状態になるらしい。
 
例えば、ツッコミながら時事ネタや風刺を入れ込むといった具合に、バカなやりとりと見せかけて、インテリジェンスな要素をそれとなく混ぜ込むのだ。(古典漫才のように)

レベル2(上級)の例
「何バカなこと言ってんの!それじゃあまるで、○○じゃないのっ!(べシッ)」
 

最高レベルに至ると…


ダジャレもずいぶんと、奥が深い。
レベル2(上級)は、風刺まで入れたツッコミを即興で行うのか…。
 
さらに、彼が言うには、もっとハイレベルな対応があるとのこと。
それは、ダジャレをダジャレで返すという技であった。
 
つまり、ダジャレを言われ、即興でツッコミを入れながら、さらにボケとしてのダジャレを乗せていくという技を繰り出すのである。

これが、レベル3だ。
 
この時に、初めて気づいた。
ダジャレは、ボケなのか…?
知らなかった。
 
私は彼に確認した。
 
「つまり、レベル3になると、ラップバトルのようなことが行われるという認識で合っていますか?」と。
 
彼は、頷いた。
 
まず、ラップの説明をしよう。
ラップとは、アメリカを発祥とするリズムにのせて喋るように歌う歌唱法である。1970年代にニューヨークで発祥したと言われている。どこかで聞いたことがあるが、ラップは、抑圧された黒人が唯一正々堂々と「音楽」として本音を吐き出せる魂の場・時間である、と。

次にラップバトル(フリースタイルバトルとも言うらしい)の説明をする。
ラップを用いて、2人が互いにリズムを8~16小節ごとに担当し、お互いに対してラップをし続けるというものである。勝敗は、観客にどれだけ響きを与えられたかで決まるようだ。
 
※2003年に映画「8mile」を見たことがあるので、バトルの知識はある。

夫によると、ラップの要素は、韻(あいうえおなどの言葉)とリズムとバイブスらしく、それはダジャレにも通じているとのことだった。
 
なるほど。
ダジャレに対応するには訓練が必要であることが理解できた。
 
私は、ダジャレはラップよりも難しいと感じた。
それは、ベースとなるのが音楽ではなく会話であることだ。
 
単なる会話から、韻を踏み、社会的な風刺も交えたウィットに富んだツッコミを入れながら、最終的にどちらがボケなのかツッコミなのかが分からない状態にまで至り、韻とリズムとバイブスでコミュニケーションをとらねばならないのだ。
 
さらには、そのダジャレの一連のやりとりを終えた後、元の会話に戻るということも大切なポイントであり、ミクロ視点とマクロ視点の移動をはじめ、文脈を繋ぐ力、場を扱う感覚も必要になってくる。

もう一つ付け加えると、ラップと違って観客や聴衆がいないので「だれに届けたいねん?」ということも、かなり意図しなければ表現が曖昧になりかねない。
 
ダジャレ…、めちゃくちゃ難しいじゃん!!
 
となり、こんなに難しいことを日々自然とチャレンジしている夫をすごいなと思った。
 
ダジャレを有効活用するには、ラップという土台があった方が良さそうだし、その前にウィットに富んだツッコミ力を養うために落語や漫才などの土台もあった方が良さそうであり、これを極めていくには相当な精神力と時間が必要になってくる。
 
そもそも、極めるってなんだ?という話だが。
 
私には、極めることは無理そうだが、これから夫がダジャレを言った際には、これまでとは違った対応が出来そうである。

飽くなき探究心とチャレンジに乾杯・・・。私、完敗。

ダジャレは魂の叫び

ダジャレに対応するためのレベルをおさらいしよう。

レベル1:ただ笑う
レベル2(初級):ツッコミ
レベル2(上級):時事ネタや風刺を交えたツッコミ
レベル3:ラップバトル
 

レベル1とレベル2(初級)に関しては、特段高度な能力やスキルは必要ではなさそうだが、レベル2(上級)より上になってくると、能力とスキルと適切な発達が必要になってくる。

夫に参考教材として鎮座DOPENESSというミュージシャン(ラップ専門)の動画を見せてもらった。各年代の彼のパフォーマンスを見た時に、最近のものが表現力や場を見る能力が著しく発達していることを確認できた。

ここで述べている発達とは、成人発達理論における人の成長段階を指す。
簡単には説明できないので、ご興味のある方はこちらの本を読んでみてほしい。
人が成長するとは、どういうことか ーー発達志向型能力開発のためのインテグラル・アプローチ – 2021/5/29 鈴木 規夫 (著)

夫と話していて、ラップでの効果的な自己表現をするためには少なくとも「自己主導段階」に達していることが求められるのではないか?」というところでお互い納得した。

つまり、レベル2(上級)以上の対応をするには、社会的に与えられた役割「小さな私」ではなく、深い自己内省やシャドウと向き合った先に出てくる「大きな私」としての声を持っている必要がある。

さらには、場を見る力、場を扱う力、場への影響力に自覚的であるかも問われてくる。

それは、洗練されたダジャレにも、ラップにもバイブスがあるからだ。
※Vives(英語):雰囲気・気持ち・ノリ・他者に与える雰囲気や気持ち

このレベルになると、魂の叫びとも言えよう。

最後に

韻を踏むことに美を感じるのは、もともとの日本文化の中にもある。
和歌や俳句などをはじめ、古来から言葉の美しさやリズムを上手に扱い自己表現できる人は重宝された。落首もしかり。

ダジャレは非常にハイコンテクストであるにもかかわらず、あえて庶民的なアプローチをとっていること、誰にとっても気軽に魂の叫びを探究・実践できるものであると知ることができ、非常に学びが深かった。

※参考(夫おすすめ)
鎮座DOPENESSさん
ラップの歴史(https://www.youtube.com/watch?v=XoBzp0CvJ50

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