Episode.Ⅰ その名の運命

西暦1☓☓4年 S国 帝都バックレー。
シュミッター官邸内にて。
二人の軍人が廊下を歩いている。

「ゴホゴホ」
「おやおや、ウイリアムズ大佐。今日は大丈夫ですかね?」
「フッ… キアームよ。私だってそこまで歳ではない。風邪くらいで休んでいたら、まともな戦略など立てられんよ」
「まぁ、そうですな。シュミッター元首の病状に比べたら、我々の健康問題など些細なものでしょう」
「ゴホ、グフッ… まあ、それよりも会議室へ急ぐぞ。我々が遅刻などして、我が軍の貴重な英雄の名誉に傷などつけてしまっては元も子もないんだからな、キアーム少佐」
「ハッ! 失礼いたしました、大佐」

二人は少し駆け足で、官邸の廊下を駆け抜け、4番館の一番奥にある第13会議室のドアを開けた。
ガチャ…

「すまないすまない。ケホケホッ… 少し遅れたかな」
ウイリアムズ大佐はそう話し、部屋の奥に眼を向けると、一人の細身の青年が、軍服を着て丸椅子に座っていた。
すると、キアーム少佐は耳元で、
「大佐、どうやらコタロー作戦による被爆の副作用は外科手術により取り除かれているようです」と囁いた。
「うむ、そうだったな。彼は我が軍の唯一の生き残りであるものな。あまりに眉目秀麗な出で立ちだったのでつい忘れてしまっていた…」


「あ、あの!!!」


突然、青年は椅子から立ち上がり、ウイリアムズ、キアーム両者共の目をはっきりと見つめて敬礼し、こう答えた。
「陸軍第666部隊 伍長 ゴウ・ミッツバーン。対タカイド戦を終え、只今帰還致しました!!!!」

すると、ウイリアムズとキアームも敬礼をし、
「ミッツバーン伍長!よくぞ無事帰還し、我が軍のためタカイド国のユマニチュード弾の本土上陸を未然に防いでくれた!!」
「そのことを今日をもって祝福し、貴殿には新たに士官として大尉の軍務に就くことを、ここに任命する!!!」

と言って、キアームは懐から木製の箱を出し、ウイリアムズへ手渡した。そして、ウイリアムズは箱から勲章を取り出し、ミッツバーンの胸へと取り付けた。

「これより、貴殿はミッツバーン大尉だ」
「ハッ、誠にありがたく存じます!!」
ミッツバーンは再び敬礼をした。

「フフフ、どうやら我が軍で東洋系の士官が生まれるのは史上初めてのことだそうだよ」
と、キアームはニヤニヤしながら呟いた。

それに対しミッツバーンは、
「はい… 誠にありがたく存じます…」
と静かに答えたと思えば、素早く懐に手を伸ばして内ポケットから銀色の拳銃を取り出した。

そして、次の瞬間
ミッツバーンの腕からは勢い良く火が吹き、キアームの脳髄は吹き飛ばされた。

ビチッと血がウイリアムズの顔面に向かって飛び散ったと思った頃には、ウイリアムズの左膝には二発目の弾丸が直撃していた。

ああああああああああああああああああああああ


「痛ぇぇぇぇぇえええええ!!!! 痛ぇよぉお」


ウイリアムズは悶絶し、真っ赤なカーペットの床へ勢いよく倒れこんだ。

「ん、なぜだ!!! なぜこんなことをする!!! 貴様一体何者だ!!! 何が目的なのだ!!!!」

ミッツバーンは真顔で黙り込んでいる。

「貴様、何か一言でも言ったらどうだぁ!!!!」

そうウイリアムズが叫ぶと、
ミッツバーンは銃口をウイリアムズの額にピタリと密着させて、こう答えた。




「名はミツオ。ゴウ・ミツオだ」




つづく→

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