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はいびすかす乗船。

約束は、夕方だった。
時間は、もう、覚えていない。

鹿児島のイオンを出て、産業道路を通って港へ向かった。
一通り手続きを終え、搭乗券を入手。
これでもう、本当に大丈夫だ。

ダッシュボードに券を置いて撮ってみた。
16時55分・・・

ピンクと白に塗られた船が、出発の準備をしている。
いろいろ、出たり入ったり、せわしない。
そばに積んであるコンテナが、だんだんギモーヴに見えてきた。

これから、あれに乗るのだ・・・。
あの橋みたいなの、中ほどに差し掛かったら急にバラバラになったりしないかしらん? 重機もトラックも乗り込んでいくから、おそらく大丈夫なのだろうけど。もし、運良く渡り切ることができたと仮定して、その先は、一体、どうなっているのだろう? 私は縦列駐車や車庫入れは苦手だ。周囲に迷惑をかけず、所定のスペースに首尾良く駐車できるだろうか・・・?

船のランプウェイについて悪口を書くことができる(実際、悪口ではないが)としたら、愛車も、良い勝負だった。あの“橋”の上で、突然故障して動かなくなってしまう事だって充分にあり得たのだ。

フェリーに乗るのは、私の記憶が正しければ、中学生の修学旅行以来だ。あの時は、小豆島へ行った。もちろん、私は車を運転してはいなかった。今回は、廃車寸前の愛車と一緒に、あの船に乗り込むのだ・・・。

船の名は、「はいびすかす」。
鹿児島~種子島~屋久島を毎日1往復しているフェリーだ。
乗客や車両を運ぶためだけではなく
島の生活物資を運ぶためにも無くてはならない船だそうだ。

廃車寸前の愛車と一緒に屋久島に行くのには、“ヤクツー”の名で親しまれている「屋久島2」という名称のフェリーを利用するか「はいびすかす」か、の二択だった。

極端な言い方をすれば
ピカピカの豪華客船か
オンボロ貨物船か
の二択。

所要時間も、ヤクツーの方が断然短い。
はいびすかすだって、本気を出したら同じくらいの速さで進めるのかもしれないけれど、種子島に寄るから時間がかかるのだろうと個人的には思っている。

ヤクツーの方が快適に過ごせそうではあったけれど、冥途の土産話のネタとしてはこちらのほうが面白そうというのと、早朝に屋久島入りできるという理由から、このピンクと白の船を選んだ。

ボロいけど、この船、なんだか好きだ。
種子島もちょっぴり気になる。

搭乗手続きが夕方だったのも助かった。早朝に間に合う自信は無かった。かつて勤めていた会社の、避難訓練じゃあるまいし。
「遅刻してはならない」と自分自身に言い聞かせることに、私は疲れてしまっていた。この旅くらいは、のんびりいきたかった。

愛車も、長時間休める。

諸事情により、ふたりはヤクツーに乗らなかったけれど、この物語の名前は、しっぽが「屋久島2」。私にとっては、2回目の屋久島だ。

無目的で向かっている屋久島だけれど、この旅でしてみたいことはいくつかあった。そのひとつが、ふたりでフェリーに乗ること。
もうすぐ、夢が叶うのだ。

廃車寸前の愛車は、行儀良く並んで待った。
私は、写真をたくさん撮った。

その後、どうやってフェリーに乗ったのか、覚えていない。
写真が教えてくれたところによれば
17時30分には、私はひとりで人間エリアに居た。