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1億円と共に眠る

眠れない。

眠れない眠れない眠れない。

そう考えているうちは、いつまでも眠れないのだ。
と、わかっているのに、頭が思考をやめない夜もある。




しかし、確実に寝た方がいいことはわかっている。世の中に、寝た方がいい時間というのは、確かに存在する。それが夜であり、まさに今なのだ。

延々と続く飲み会の終盤、先生が授業をしている間、会社の会議中、高速道路の運転中など、眠気が襲う瞬間は、日常で、いくつもある。
しかし、それらの殆どは、実は、寝ない方がいい時間なのである。自分ではさほど重要と思っていない時間でも、誤ったタイミングで睡眠を取ろうとすると、自分では気付かないうちに、信用や、職や、命などを失うことがあるのだ。

けれど、間違いなく今だけは、寝た方が有意義な時間なのである。そして、寝た方が有意義な時間とはつまり、まったく無意義な時間ということなのだ。

別に、無意義な時間だって大事じゃないですか!人生のすべてが有意義であるべきなんて、誰が決めたんですか!なんでですか先輩!俺、悔しいっすよ、、!!!などと、心のなかの熱い後輩が責め立ててきても、感情的になってはいけない。
無意義な時間に寝ておかないと、睡魔が有意義な時間に侵食する恐れがあるからだ。


しかし私は、この、人類が長年苦しんできた問題に、独自の研究の末、終止符を打った。数年前、一旦眠れなくなってからも、すぐに眠れるコツを完全に掴んだのだ。これはかなり高度な研究で、非常に価値のある情報なので、ここに書くのをためらったが、まさに今、困っている人がいるかもしれないので、こっそりと教えよう。

それは、「1億円当たったら何に使うか」ということを考える、というものだ。

大体、夜に寝れなくなる人間は、過去の失敗や、現在の不安、将来の見通しや架空の世界のことなど、きまって答えの出ない愚かしい問題について、延々と考えているのである。しかし、実際にはその思考は、寝ようとする人にとって、全く無意味なことであり、早く眠った方が確実に有意義な時間なのである。

そのような思考に陥ったとき、「1億円当たったら何に使うか」という1点のみに意識を集中させるのだ。当たるはずもない(そもそも宝くじを買っていない)1億円の使い道を考えているうちに、いつのまにか寝ている、という仕組みである。


この手法で、私は幾度となく入眠し、無意義な時間から逃れてきたのだ。有意義を生み出す架空の1億円は、もしかしたら実際に、100万円くらいの価値にはなっているかもしれない。

これはもの凄い発明だ。もしかしたら特許も取れるかもしれない。特許が取れたら特許料を取って、ついでに1億円のことを考える歌なども作って、特許料と印税で暮らすぞ〜という事を考えて入眠に至った日もあった。


しかし、1億円で眠れたのはそれから数年のことで、ある日突然、終わりを迎えることとなった。

何度も考えるうちに、私の1億円の使い道はパターン化し、おおよそ何に使うかが決定し、入眠の前に結論が出るようになってきてしまったのだ。



私はまた無意義な時間に囚われ始めた。もう1億円では眠れない体になってしまったのだ。
うわあああああああああ
もうどうすればいいんだああああああ

などと言っていないで、本当に早く寝るべきである。

仕方ないので一旦、今日は10億円当ててみることにしよう。


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