Future Raveがコロナの壁を崩壊させる時、EDMの新時代が来る
今、世界を席巻している新たな音楽ジャンルである「Future Rave」
David GuettaとMORTENが2019年から始めたプロジェクトであった「Future Rave」は、独自のフレッシュなサウンドを確立し、新たな文化として存在感を表しはじめています。
”EDM is Dead”などと2015年頃から言われ、2020年からはコロナによりダンスフロアに人を入れることもできなくなり、瀕死状態のEDMシーン。
しかしここに来て、EDMの王座に君臨するDavid Guettaが動きをみせ、EDM新時代の到来が見えています。
今回の記事では、
なぜここに来て「Future "RAVE"」なのか?
Slap Houseなど流行中のジャンルとは異なる、その時代的・文化的な必然性も紹介させて頂きます。
Future Raveとは
Future Raveは、テクノから影響を受けた北欧的なメロディを作っているといいます。
ダークなテクノや、エモーショナルなトランスの響きの中に、しっかりとEDMのエネルギーが漲っています。
フランス出身のDJ兼プロデューサーであるDavid Guetta、そしてデンマーク出身のDJ兼プロデューサーであるMORTENは、
と宣言しています。
Future Raveというコンセプトを詰めた最高のEPとして「NEW RAVE」をZOOMでセッションをしながら2020年リリースしました。
David Guettaの苦悩
◆ EDM黄金時代
David Guettaといえば、伝説のEDMプロデューサーです。
ヨーロッパで根付いていたハウスミュージックをアメリカの人気R&Bシンガーやラッパーに歌わせるというEDMプロダクション手法を確立しました。
それまでのトランスの流行を退け、2009年以降のEDM黄金時代を形作ることとなります。
EDM誕生までのダンスミュージックの歴史は、こちらの記事で詳しくまとめています。
EDMの世界的な商業化に成功したDavid Guettaも、膨れ上がっていくEDMブームには困惑していたようです。
ダンスミュージックに身も心を捧げたDavidにとって、自分の同じ曲が至る所で何度も何度もかけられる様子は、心が痛かったとインタビューに答えています。
時にはキマってる姿を見せてしまうことすらありましたね()
◆ ビッグルーム+アンダーグラウンド
最も一般的なEDMジャンルとして、Bigroom Houseがあります。その名の通りフェスなどの大空間でかけるのに適したハウストラックです。
テンションをあげていき、一気にドロップさせるエネルギッシュな楽曲展開は、多くの人々を虜にしました。
David GuettaもEDM黄金時代には、ビッグルームのサウンド形成に強く貢献し、「Bad」などのアンセムをいくつも作りました。
また現在でも、ColdplayとBTSのコラボ楽曲として話題の「My Universe」でOfficial Remixを手掛けるなど、ダンスポップス方面への力を入れ続けています。
そしてDavidは、世界的人気番付 「DJ Mag Top100 DJs」で10年ぶりに2年連続1位を獲得。
さらにはヨーロッパ最大級の音楽授賞式である「MTV Europe Music Award」でもエレクトロニック部門で2年連続1位を獲得しています。
一方でEDMに疲弊したDavidは、よりクールで、セクシーで、上品な音楽を探すことを決意します。
Jack Backは、David Guettaの別名義です。2018年頃から活動を本格化させ、アンダーグラウンドなハウスやテクノを探求していきます。
自身のルーツへ戻った、Jack Back名義での楽曲は、アンダーグラウンド志向の人も頷かせるクオリティになっています。
さらに「EDMに置いておくのは勿体ない」なんて声も届くほど、DJも上手いです。EDMの強力なドロップに頼らずとも、楽曲のグルーヴを操って聴衆をコントロールできます。
昔からヒップホップとハウスを接続するためにスクラッチなどのDJトリックも余裕で使ってきたため、上手いなんて今更すぎるかもしれません。
ただショーの都合上、口パクならぬ、ボタンプッシャーをしてる姿を幾度か目撃されため、意外という人もいるかもしれません。
ですがそんな人も、Jack Backのパフォーマンス映像を見ると、キマってるイメージのまま”FAKE DJ”などと呼べなくなるのでは。
残念ながら、このJack Backプロジェクトには欠点が存在しました。
商業性・大衆性を排除したばかりに、アンダーグラウンドな音には、フェスティバルでオーディエンス全体を掴むエネルギーが無かったのです。
フェスで待っているファンの心と、自身の音楽家としての意思、それらを繋げてくれるサウンドを模索しなくてはなりませんでした。
◆ David Guetta × Jack Back
Jack Backが徐々に人気をあげる2019年頃、友人であったMORTENとの楽曲がDavid Guetta名義で披露されていきます。
イビザ島でのセット前半では、素晴らしいハウスDJ、Jack Backとして盛り上げています。
そして開始から14分ごろ、7曲目ではEDMムーブメントのアイコンであったAviciiへの追悼リミックスとして、 「Avicii ft. Chris Martin - Heaven (David Guetta & MORTEN Remix)」を初披露します。
その後、Aviciiの大名曲「Wake Me Up」では共同制作し、ボーカルも歌っていたソウルシンガー、Aloe Blaccをフィーチャーした「David Guetta & MORTEN ft. Aloe Blacc - Never Be Alone」をかけます。
なんて素晴らしいミックスでしょうか。AviciiそしてMORTENによって、David Guetta とJack Backは完全に接続しました。
この極性が連続性をもっていく過程は、ドラムンベース、ブレイクビーツ・ダンスミュージックのときと同じものを感じます。
ドラムンベースにおいても、メロディックとハードコアのせめぎあいの中で、ダブステップやトラップなどのベースミュージックが生まれていく過程を見ることができました。
しかしDavidは面白いことに、Future Raveは単なるクロスオーバーではなく、立体的な統合を成し遂げたと語っています。
そこで見えてくるFuture Raveの特徴とは、テクノのドラムと、トランスのもつエモーショナルさ、そしてEDMのもつダイナミクスです。
つまり、アンダーグラウンドかつビッグルームなサウンドの誕生です。
このサウンドを見つけるまでの苦悩は、David GuettaとMORTENが詳しくインタビューに答えています。
◆ King of EDM
創造的であり続けるDavid Guettaの姿勢には、ジャズの帝王Miles Davisの姿を重ねてしまいます。
David Guettaはハウスシーンから始めて、EDMを開拓し、テックハウス、フューチャーレイヴまで模索しました。
Miles Davisも同様に、芸術性の高いビバップからキャリアを始めて、聴きやすいクール・ジャズ、アドリブしやすいモード・ジャズなどを開拓し、最後には電気楽器を使うフュージョンを形作りました。
Milesはジャズ文化へ計り知れない貢献をしました。
Davidは、今も新たな電子楽器に挑戦しています。
Top 100 DJsで1位に返り咲いた2020年受賞式典ライブで、1曲目に初挑戦となる電子楽器を使い、私達を驚かせてくれました。
失敗できない状況であえてチャレンジする姿勢は、本当に尊敬できます。
David Guettaのことを「King of EDM!」だというと、まだ多くの反発を受けてしまいます。
しかし彼のFuture Raveプロジェクトが本当の意味で成功した時、「David GuettaこそがEDMの帝王だ!」と私は言いたいです。
冷戦時代のレイヴカルチャー
さて、サウンドとしてのフューチャー・レイヴの素晴らしさはここまでで理解していただけたのではないでしょうか。
ここからは、文化的な側面から見たフューチャー・レイヴがもつ時代性を考えていきます。
そのためにまず、レイヴが冷戦時代に及ぼした影響について説明しなくてはなりません。
◆ 東西分断
冷戦時代、ソ連率いる社会主義陣営と、アメリカ率いる資本主義陣営の対立が起きていました。
ドイツは東西に分けられ、首都ベルリンも東ベルリンと西ベルリンに分かれていました。
そしてベルリンは壁で覆われ、冷戦の象徴となっていました。
◆ 東ベルリン
東ベルリンは「平等の街」で、退廃した美しい町並みの中を、兵隊や秘密警察が目を光らせていました。
音楽は規制されており、ギターを許可なく持つことは、銃を持つことに等しい危険なことでした。
◆ 西ベルリン
西ベルリンは「自由の街」で、ネオンの光に集まって、そこら中に薬物中毒の娼婦、ヘロインを売る子供、酔った警官がいました。
西ドイツから飛び地であった西ベルリンでは、高度に政治的な場所であるにも関わらず、兵役を逃れることができる場所でもあったため、多様な人々が集まり24時間クラブがオープンしていました。
◆ 音楽の密輸入
LGBT、ヒッピーやパンクス、不法移住者など、多様な人が集まるセクシーな街であった西ベルリンが、「音楽の街」になるのは多くの歴史的事実からみても必然的でした。
そして「音楽の街」と「音楽規制された街」が壁越しに接触しているという稀有な場所が、東西ベルリンだったのです。
そうして、イギリス出身のサウンドエンジニアであったMark Reederは音楽の密輸入を試みました。
東ベルリンにおいて、ディスコは許可されていたものの、「自由」なパンクは存在しませんでした。
そこでMarkはカセットや、パンクバンドを検問で隠して持ち込み、教会でのライブを秘密警察の目を盗んで開催しました。
◆ レイヴ
1980年代後半になると東ベルリンの音楽規制は緩み始め、ラジオでかかる西の音楽に対し必死に耳を傾けていました。
それに呼応するように、イングランド出身で西ベルリンにも移り住んでいたDavid Bowieは東ベルリンに音楽で訴えかけました。
1987年、David Bowieはベルリンの壁で野外ライブを行い、西側からスピーカーを向け、東側には5000人が警察と押し合いになりながら集まりました。
さらに音楽はベルリンで盛り上がり、レイヴが入ってきます。
1980年代にアシッドハウスや、テクノを流して集まるフリー・パーティとしてロンドンで始まったのがレイヴです。
1989年7月には西ベルリンで150人が、「Friede, Freude, Eierkuchen(軍縮、音楽、食糧を意味する)」を訴えるデモをするために集まり、レイブ「Love Parade」が始まりました。
◆ ベルリンの壁崩壊
1989年11月に、ついにベルリンの壁が崩壊しました。
東西の若者は興奮のなか出会い、団結する手段としてレイブを選びました。
レイブはもともと廃屋などを違法占拠して行うパーティだったため、行政が機能しない無法地帯でもすぐさまレイヴは作り出せました。
◆ PLUR
ベルリンの壁崩壊直後、混沌の中におきた「団結」は、今日のEDMにおいても重要なキーワードです。
「PLUR」は、Peace,Love,Unity,Respectをまとめた言葉で、レイヴそしてEDMのモットーとして知られています。
「平等の街」、「自由の街」が奇妙で面白かったように、「PLURの街」もとても個性的な魅力を持っています。
Kandiと呼ばれるアクセの交換は、PLURを祈る儀式として人種やカーストの境もなく、多くの人に信じられています。
コロナ時代のEDMフェス
レイヴから精神性を受け継いだEDMの黄金時代は、レイヴ同様に商業化の大きな波の中で過ぎ去っていきました。
さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、軒並みクラブもフェスも閉鎖されました。
◆ 東京
「コロナの街」では、閑散とした街で人々は距離をとりあい、マスクをつけ、アクリル板を敷き、ワクチンを打ちます。
SNS上では自粛警察に監視され、危険な行動はできません。自粛警察に隠れて危険な集会をしようものなら、すぐに嗅ぎつけられて処罰されます。
国境も検閲が厳しく、音楽を密輸していたMark Reederの言葉の意味が今ではよく分かります。
壁内でも分断意識は強まり、悲惨な事件もいくつか起こりました。
◆ フューチャー・レイヴ
コロナの街へ音楽を届ける方法は、オンラインライブでした。
ネット上に作られた小部屋へ密かに集まり、チャットやZOOMで交流しながら、団結します。
この新しいレイヴで流す新たな音として、David GuettaとMORTENは「Future Rave」を選びました。
奇跡的にコロナ直前に形作られ始めたこのムーブメントは、2020年以降拡大していきます。それはペストによってルネサンスが起こり、ギリシャ・ローマ芸術が復活した喜びに親しいものを感じます。
MORTENはレイヴに関して次のように語っています。
またDavidはダンスミュージック全体に対しても答えています。
その証拠として、かつてのEDM黄金時代も、2008年にあったリーマンショックの後だから起きたんだと説明します。
危機や災害の時、不安から逃げる場所が人間には必要です。そんなポジティブな力がダンスミュージックにはあります。
そしてFuture Raveはただのサウンドではなくムーブメントであり、みんなで共有するものだとして、制作の様子まで包み隠さずに公開してくれています。
Davidのコロナ禍における素晴らしいチャリティープロジェクトとして、「United at Home」があります。
ニューヨーク、マイアミ、パリ、ドバイなど、美しい都市空間における最高のロケーションを占拠し、観客を一切入れないオンラインライブを行いました。
マイアミでタワーマンションから顔を出すオーディエンスは、都市型レイヴの未来系を感じさせ、まさに彼のTシャツの裏に書かれた「Future Rave」を体現しています。
◆ EDMフェス開催
毎年イングランドで開催されるEDMフェス「Creamfields」が、また2021年8月に再開されました。
ワクチン接種が早かったこともあり、政府も思い切った大規模フェスに踏み切ることができました。
そして3日目のトリをDavid Guetta は務めました。大観衆を前に今年一番といえるセットを見せてくれました。
イントロの「David Guetta ft. Sia - Titanium (David Guetta & MORTEN Future Rave Remix) 」は何度か披露されていますが、会場の照明装置の美しさや、観客の大合唱も相まって、過去最高の仕上がりです。
Siaをポップスターに導くきっかけとなる「Titanium」も、10周年だということを語り、MORTENをステージに上げました。
ラストにかけた「David Guetta ft. Usher - Without You」では、小細工なしに2010年初頭のクラシックなEDMサウンドを再現してくれました。
自分は思わずノスタルジーで泣きそうでした。
United at Homeドバイの時のように今の音楽性のままエンディングを押し切ることも彼にはできたことでしょう。しかし最後に久々の観客と、懐かしのEDMアンセムをかける意味は本当に大きいです。
最後にかける曲があったようですが、このままで十分美しいです。
10年という時間と、Future Raveの登場は、クラシックに重厚感を与えたようです。
David Guettaは完全に覚醒しました。
◆ EDMスター再集結
「Titanium」の記憶で思い出されるのは、やはりAfrojackとNicky Romeroを従えて出た「Tomorrowland 2013」です。
Afrojackは、EDMの代表的アーティストであるだけでなく、日本でもEXILEの所属事務所LDHのヨーロッパ支店でCEOを務めていますね。Afrojackは「Titanium」でも共同制作に参加しています。
Nicky RomeroもEDMシーンを牽引した一人であり、SEKAI NO OWARIのドラゲナイこと「Dragon Night」もプロデュースしています。
さらにはラストで「Titanium」をかけると、トリで控えていたSteve Aokiまで登場してきてしまいます。
まごうことなき伝説のライブですね。
そんなかつてのスターDJたちが、今またDavid Guettaの音楽に刺激され、Future Raveトラックを作っているというのは、EDMの新時代がついに到来したことを感じずにはいられません。
◆ フューチャー・レイヴ2.0
2021年10月頃には、David GuettaとMORTENはさらに「Future Rave 2.0」の公開を始めました。
David Guettaが以前、「Future Rave 2.0まで後すぐだ」と話していました。そして10月のADEでのパフォーマンスの後、MORTENはインタビューで次のように答えています。
MORTENはTwitterで「FR2.0」の公開だけでなく、「FR3.0」の存在もほのめかしています。今後が楽しみで仕方ないです。
最後に
日本では、依然としてコロナの壁は残ったままかもしれません。
しかし確実に向こう側では、華やかなグラフィティが描かれ、団結するときを今か今かと待ちわびているように感じます。
MORTENは初来日して東京でライブを行うことも宣言してくれています。
新たなサウンド、そしてカルチャーとなるであろう、FUTURE RAVEを一緒に盛り上げていきましょう!
#Peace #Love #Unity #Respect
#Future #Rave #FR
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