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フリーウェイに乗って、山下達郎を追いかけて! Road.4「MOONGLOW」

※こちらは、僕が、山下達郎のオリジナル・アルバムを買い集めきるまでの旅を記録した日記です。
ちなみにサブスクでの配信はほとんどないため、音源は貼りつけません。気になる人はアルバムを買うといいさ。

4th Album「MOONGLOW」

1978年の暮れに出された「BOMBER」が大阪のディスコでヒットしたことから山下達郎さんは翌年、大阪サンケイホールでライブを行います。前身であるシュガー・ベイブ時代に訪れた大阪は、反・東京サウンドの風潮を感じたため、懸念はあったそうですが、ライブは大成功をおさめ、東京でしか活動できなかった山下達郎さんは全国ツアーを回り始めます。
僕はこの事実に驚きました。
ブルージャイアントというテナーサックスプレイヤーを描いた漫画があり、主人公のダイは今、アメリカを旅しています。多国籍民族の住むアメリカならまだしも、日本は小さな島国。米国の国土面積、5分の1にも到底及びません。そんな中でも好まれるサウンドに違いがあると知り、改めて音楽シーンの緻密さを実感しました。
また新しく立ち上げられたレーベルAIRに移籍し、1979年秋にリリースされた「MOONGLOW」は時代性を意識し、なによりライブでの再限性を優先させたアルバムだそうです。
そしてこのアルバムのヒットと、ツアーの成功が「RIDE ON TIME」の足掛かりとなっていきます。


2.永遠のFULL MOON(A side)

アルバムのタイトル通り、全体的に夜を感じさせる曲が多いです。
夜といえば、寝静まる時間ですが、アルバムに並ぶ曲たちは夜の散歩に似合うものが多くラインナップの中でも特にご機嫌なナンバーが「永遠のFULL MOON」です。
特にお気に入りな節回しがあり、それは1サビ直後のメロに入った時の「寝顔がとても、とっても美しすぎて」の「とっても」の部分です。吐息のような「と」から、囁くように「っても」と流れていく節回しが良すぎて、その後に続く「美しすぎて」の描写が声色により補強され、彩度を高めています。まさに「声がとても、とっても最高過ぎて」です。


3.RANY WALK(A side)

皆さんは、雨の日に聴きたい曲をいくつお持ちですか。
問いかけてみたものの、それはその日の気分により違く、数えること自体、野暮な行為だと思っている方もいらっしゃるでしょう。そして僕自体もそんな中の一人です。
そのため、雨の降り方や感じ方によって都度、聴く曲は違います。ですが、このアルバムを買った時、丁度、雨続きだったのですが、カーテンを開ける度に聴きたいと思えた曲は「RANY WALK」でした。
なぜ、それほどまで僕を惹きつけたのか、それは雨に対して抱く印象描写が曲中、肯定的な表現に徹底されているからです。特に、その印象を顕著に感じたのが、Bメロ部分の詞でした。

ひそやかな雨 足元に戯れて
揺らぎ踊るよ 夜明けの雨

雨が足元に戯れる。
自然現象を快く受け取れる感性がなければ、まずこんな言葉は浮かびません。吉田美奈子さん、さすがです。

またこの曲はドラムが高橋宏幸さん、ベースは細野晴臣さんで、当時全盛期を迎えていたYMOメンバーが曲の下支えをしています。そんな舞台の上ならば、どれだけ軽快にステップを踏んだとしても崩れないでしょうね。
全然関係ない話になるのですが、最後のアウトロに続いていく詞が「達郎の中で……」と聞こえるのは僕だけでしょうか。空耳アワーに投稿したい。もう終わっちゃいましたがね。


5.FUNKY FLUSHIN'(A side)

冒頭にも書いたとおり、「MOONGLOW」はライブでの再現性を重視した一枚です。その中でもこの曲が一番コンセプトに近いんじゃないかと思っています。
コレ、演られたらたまらないですよね。
まさに「すてきな Music」です。
ゆったりとしたダンスチューンが多い中で、一際、ファンクでリズミカルなのが特徴の「FUNKY FLUSHIN'」。
この曲を聴いていると、叙情的な詩とか、繊細な心情描写とか、そんな小難しい理屈なんていらなくて、ただリズムに乗ってステップを踏んで、歌詞もサウンドもそれだけでいいのではないかと思ってしまいます。
音楽に合わせて踊る。その行為は古の人類から受け継がれてきた我々の快楽であり、逃避行動でもあります。ああ、音が唯々、楽しい。ベースがすてき過ぎてです。


6.HOT SHOT(B side)

何一つ知らずに パーティ楽しむ奴の
茶番は終わり 時は今来た

「FUNKY FLUSHIN’」でしっかり楽しませ、躍らせてからの「HOT SHOT」の冒頭。思わず笑ってしまいました。
作為的に配置されたのかと疑ってしまうほど、(A side)からの流れを見事に(B side)へ意識を切り替えさせるこのナンバーは、曲自体短く、まさに銃弾を一撃打ち込まれたような鮮烈さがあります。
サウンドは「BOMBER」にもどこか似ているカッコよさと渋さがあり、曲の最後、ファルセットで「引き金を引き、殺す」とちゃんと直接的な表現を選び、使っているところにもしびれます。銃声で曲が終わるのもたまらないですね。撃ち抜かれたい。


Bonus track. [MOON GLOW]


「いいから早く、追ってくれ!」

 きっかけをつかめた気がしたツアーファイナルのライブからの帰り、ミュージシャンに不運が訪れる。
 彼は交差点を渡る時、轢き逃げに遭った。
 不幸中の幸いか、すぐに受け身を取れたため怪我はないが、それがどうしたといった具合で、彼は肩を怒らせて後部座席に座っている。

「ああ、俺も見ていたぜ。アイツ信号待ちをしている時からなんか怪しいなと思っていたんだ。落ち着けなさそうだったし、いやぁ、不運だったな! ところでお兄さん、有名人なんじゃないかい?」
 捕まえたイエローキャブの運転手は確かに前の車を追ってくれてはいるが、口数が多く、喧しい。
「お願いだから後ろを向いて運転するなよ。せっかく助かったのにここで死ぬのはごめんだ」
「任せなよ。俺はプロのドライバーで、もう15年が経つ。だからこうやって後ろを向いて運転していてもな、大丈夫だ。ところで、お兄さんそのバッグには何の楽器が入っているんだ?」
 まるで自動追尾しているかのように、タクシーは前の車を捕捉し続ける。ウィンカーが右へ、左へ、摩天楼を縫うように二台はストリートを走ってい
く。

「ギターだよ」
「ということは、お兄さん、ギタリストか! ならなんか少し弾いてくれよ。どうせあんたは後部座席にこうして座っているだけで暇だろ? 演ってくれたらチップはナシでもいい。頼むよ。今夜は俺のチームが負け戦でさ、ラジオを聞いていても気が滅入っちまうんだ」

 彼は眉間にしわを寄せながらも、ケースを開いた。わざと音を立ててジップを開いてみるが、運転手には彼の苛立ちは届いてないようだ。
 彼は弦を弾く。
 エンジンに音はまぎれるが、運転手は彼のメロディに鼻歌を重ねた。
 その時、彼の中で予感が訪れた。それは轢き逃げ犯の存在など、どうでもよくなってしまうほどの出逢いのように思えた。

「ちょっともう一回、同じように口ずさんでくれ」
 運転手は同じようにフレーズを口ずさむ。彼はつま弾く。
「どうしたんだ?」
「あ。いや、気のせいだ」
 それから、彼はリクエスト曲をいくつか弾き、運転手は気持ちよさそうに歌った。

 彼らはハイウェイの途中にあるダイナーに寄った。手で潰したワッパーを頬張りながら、ポテトを摘まみ、コーラを流し込む。

「なぁ、本当にいいのか?」
「ああ、もういい。今日のことなんてどうでもいい」
「そうか。ならもう一つ食べてもいいか?」
 どうせ、断られるだろうと思ったが彼は止めようとしなかった。
「俺のも、頼むよ」

 満月の明かりがダイナーを照らす。
 夜の翼を広げた彼の時は、今、走り出したようだ。

※ 
なお、このストーリーはフィクションです。
ご了承ください



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