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2022.08.14短歌日記

詠み人知らずになりたくて仕方ない。
詠み人知らずになるには、一首がとても有名になって作った人がわからなくなるまで愛唱され続けないといけない。

先日選考に残った作品賞で「この人は普遍性や根源性について考えて詠んでいますね」(要約)と評されていました。
全然考えたことはなかったのですが、あーたしかにそうかもと思い、一辺倒だった作風を反省し、でも一方で、とてもうれしく思いました。

高校のとき、古典がちょっとだけ好きでした。うたい継がれる歌は、普遍性があるからこそうたわれ続けるのだと、わたしはそう信じてはばかりません。

花さそふ比良の山風ふきにけり漕ぎゆく舟のあと見ゆるまで/宮内卿(新古今和歌集より)


これが、人生でいちばん好きな和歌です。
水面にいちめん花吹雪が散って浮かんでいます。花筏を割って進む手漕ぎぶね。航跡は青くたなびき、消失点の奥に見える船まで続いています。考えるたび、胸がぎゅっとするような景色です。

わたしはこの歌はずっと和泉式部の歌だと覚え間違えており、最近になって"宮内卿"だと知りました。一瞬男性かと思いましたが、実際のところは20歳ごろに若くして亡くなった女性だそうです。

でも、作者が誰であっても、どんな人生だったとしても読み取る歌の景色は変わりませんでした。
変わらないから長く愛されたのだと、そう思いたいです。