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カーラ、時間という女神

待つこと

この週末久しぶりに冬物を買い出しに出かけたら、かなりの人出で驚いた。エレベーターで耳に入った老年の母とその娘の会話でも「半年ぶりに来た。」と話していたから、みんなもう普通に外出してもいいよね、って気分になっているのだろう。
しかし一方実家のある北海道では感染者が急増している。高齢者施設でクラスターが発生したとかで、父が暮らしている施設も、急用以外は外出禁止、面会も禁止らしい。ヨーロッパもロックダウンし始めているから、関東圏でもこの冬は油断はできないと思う。しかし、こんな生活をさすがにもう一冬過ごすと考えると、かなり気が重い。社会全体が気力や希望を失ってしまいそうだ。

私は待つことがかなり苦手だと思う。アーユルヴェーダでもヴァータ体質だし、ホロスコープでも、火のアセンダント、月にラーフの影響がある、3室が強いなどなど、せっかち要因は沢山ある。答えを早く知りたい、物事がさっさとスピーディーに動いて欲しい。同じような毎日を淡々と送っていると、気持ちがどんより停滞してくる。

しかし、精神的な成長のプロセスにおいては「待つこと」はとても重要なファクターだ。待つ、ということの中には完全に受容的で信頼するという質が求められる。奪い取るために前に出るのではなく、その場に静かにあって開き、信頼しなければならない。そしてもし毎日が同じように感じられて、どんよりするならば、自分の感性、気づきが鈍っているだけかもしれない。本当は同じ毎日、同じ瞬間など存在していない。

だからスピリチュアルな神話や逸話の中には「待つこと」そして「辛抱強さ」をテーマにしたエピソードは多い。摑み取ろう、獲得しようというエゴが完全に落ちきるまで恩寵は時に人を徹底的に待たせるのだ。

神の時間

この「待つ」ことを考える時、私はいつもインドの生活を思い出す。外国人にとってインドで暮らすことは「待つこと」「信頼すること」の連続で、生活そのものが精神修養みたいなものだった。ケーララで暮らしていた頃、私はものごとが進まないことによくイライラして、癇癪を起こしていた。限られた時間の中でできるだけ効率的に物事をゲットしたいという想いをインドはことごとく踏みにじった。師であるジョシーも私のそういう生意気な気質を叩き直すくらいの気持ちでいたのかもしれない。

ある時ジョシーは私にこう言った「時間というのは2種類あるんだよ。人間の時間と神の時間だ。人間の時間というのは過去や未来のことを考えたり、年齢を気にしたりすること、そういう時間はカウントする必要はない。でも、神の時間というものがあるんだ、それは水を火にかけて沸騰するまでにかかる時間、種を土に植えて芽が出るまでの時間、その時間は神さまのものなんだ。」

インドでは時間は「カーラ」と呼ばれ、時間と死、そして黒という意味を持つ。時間(そして死)を支配するのは女神の仕事だ。その名はカーリー、そう、あの恐ろしい死と破壊と再生の女神、カーリー女神は「時の女神」でもあったのだ。この世に顕現するものは何でも「カーラ」の支配からは逃れられない、だからカーリーは最強なのだ。

運命を刻む土星

占星術的に言えばカーリーは土星と深い関係を持つ。そもそも土星の働きがまさに「カーラ」そのものとも言える。土星はインドでは凶星で制限と抑圧を表すが、同時に土星の力なくしてこの世界に物事を生み出し、定着させることはできない。
土星は12のサインを約30年かけて一周し、トランジットの土星がサインを移動する時は大切な節目となり、インドでは土星を祀る寺院もある。その土星が自分のホロスコープでどこに位置するかの影響も大きい。例えば月の位置するサインの前後1つ合計3つのサインを通過する7年半をサディサティと呼んで、月(心)が土星の影響を受けるので、何かと責任や抑圧感を感じやすい。しかし土星の力がポジティブに働けば、社会的な地位をもたらしたりする。

土星はチャクラでは第一チャクラ、ムーラダーラと関わりあう。私たちが物質的な身体としてこの世界に存在するスタート地点だ。この世に生まれ落ちた瞬間に、私たちは時間、そして死という「カーラ」の制限を受けることになる。

占星術を学ぶようになってから、運命とはまさに「時輪」なんだなとしみじみ実感するようになった。どんなに躍起になろうと、ジタバタしようと、「時の女神」がイエスと言わない限り、物事は進展しない。そして自分の人生を振り返っても重要な出来事が起る時は、まるで時計の針がカチッと合うかのように、様々な星の動きが見事に重なり合っている。それは本当に「神の時間」だと納得せざるを得ない。

考えてみたら、人間が積み上げて来た歴史は「時の女神」とどう対峙し、どう乗り越えるかの、あくなき苦闘の軌跡とも言える。文明は女神の力を乗り越える様々な道具や技術を開発した。そして宗教やスピリチュアルな教えは、明け渡すことや、祈ること、そして私たちの本質はこの時を超えたものだと理解することで、カーラの重力から自由になろうとしてきた。

ちなみに現在土星は(インド占星術では)山羊座に位置している。山羊座の支配星は土星なので、より土星らしさがパワフルに出てくる時期でもある。
さらに11月22日には吉星の木星が山羊座入り。インド占星術では木星と土星が同時に力を及ぼすことをダブルトランジットと呼び、そのサインの象意が活性化、現象化しやすいと言われる。そしてインド占星術では使用しないが、冥王星も年末に山羊座へ。ゆっくり動くヘヴィ級の惑星が3つ、山羊座に揃うこととなる。

木星が現在在住している射手座は定座で強く、となりの山羊座では減衰する。土星は山羊座で元気がいいが、木星の守護力は一気に弱まるので、その影響も懸念されている。加えてその背後に冥王星までいるとなると、一体「時の女神」はどんな采配を振るうつもりなのだろう。

私にとって、土星の山羊座在住は7年半続くサディサティのはじまりで、やはり土星の重み、制限をじんわりと感じる。そしてこの土星のせいなのか、第一チャクラに関わる領域に意識を向けることが多くなった。土壌を整えタネをまき水をやる。自分の苦手な「待つこと」「辛抱強さ」「コツコツ積み上げること」がテーマになっているようだ。いくら早く先に行きたい!とジタバタしても、植物が育ち果実となるまでその芽を引き抜くことはできないのだ。その時間は神様のものなのだから。

ちなみに土星の凶星力を弱めるにはカーリーのマントラが効くそう。


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