見出し画像

【インタビュー】“きょうだい弁護士” 藤木和子さん「心配しないで、自分の人生を生きて」

※この記事は「ケアラータイムズ 第5号」(2023年4月号)からの転載です。

「障害のある人の兄弟姉妹」のことをひらがなで「きょうだい」または「きょうだい児」といいます。きょうだいは、障害をもつ兄弟姉妹を一番近くで見守り、生活のサポートをしながら育ちます。親から過度な期待をされたり、逆にネグレクト(育児放棄)を経験したり、進路や結婚に悩んだり、生きづらさを感じることも少なくありません。そんなきょうだいとしての思いを発信し、きょうだいが集まる場を提供するなど、熱心に活動を続けているのは、弁護士の藤木和子さん。今回は、大学で法律を学んでいる、元ヤングケアラーのルナさんが、お話を伺いました。

◆聞き手・ルナさん、吉良英敏
◆対談日・2022年6月13日

“聞こえるお姉ちゃん”から弁護士へ

ルナ 今日はお聞きしたいことがたくさんあるのですが、まず藤木さんがなぜ弁護士になられたのか教えてください。

藤木 3歳下の弟の耳が聞こえないことが分かったのは、私が5歳の時。その時から私は“聞こえるお姉ちゃん”になりました。父は、苦労して弁護士になったため、自分の子も弁護士にしたくて、「弁護士になるんだ」と言われ続けて育ちました。「私が弟の代わりに弁護士にならなきゃいけないのかな」「でも弟と私は平等であるべきだ」という気持ちや、弟から何かを奪うような申し訳なさなど、当時は複雑に気持ちが入り乱れていました。

子ども時代、私が何を言っても、両親からは「ちょっとお姉ちゃんがうるさい、反抗期で困った」と言われることが多くて、社会に訴える力が欲しかったのかもしれません。きょうだいとして活動する上でも「弁護士」という肩書きがあった方が、いろいろな人に話を聞いてもらえると思いました。

ルナ 実際に弁護士になられていかがでしたか?

藤木 最初は、弁護士としての仕事が評価されても、きょうだいとして評価されることはあり
ません。でも私は諦めませんでした。仕事を通じて多くのろう者、手話通訳者、聴覚障害関連団体の方々と出会ううちに、「聞こえない弟がいる私だからこそできることがある」と思い、手話ができる弁護士を目指しました。2年間、国立障害者リハビリテーションセンター学院で手話通訳を学び、手話通訳士としても弁護士としても活動できる土台が得られたのです。

障害者団体の方など周りから少しずつ信頼を得て、最近では「きょうだいって大事だね」と言っていただけるようになりました。私は「きょうだいを極めたい」と思って活動を続けていますが、ヤングケアラー経験者だからといって、必ずしもケアラー支援を仕事にする必要はないと思います。ちなみに私の子どもの頃の夢は「学校の先生」だったのですが、今、耳の聞こえない大学生向けに法律学の講義をしています。巡り巡って夢が叶えられました。

きょうだいの思いを込めた一冊

ルナ 現在はどんな活動をされているのですか?

藤木 『シブコト』『SODAの会』など、きょうだいが体験談を共有できる場の運営や、きょうだいに関する情報発信など、幅広く活動しています。当事者と対談する形式のYouTubeも配信中です。先日、『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』(岩波ブックレット)という本を出版しました。

ルナ どんな思いを伝えようと本を書かれたのですか?

藤木 私、本が好きなんですね。子ども時代になかなか相談できる大人がいなくて、本やマンガから勇気を教えてもらいました。きょうだいに関する本を読んで救われたこともあるので、大学生の頃から「いつか本を出したい」と思っていました。20年かかりましたが、出版できて良かったです。

この本には「私のことは誰が助けてくれる?」という強めの叫びを使いました。本をきっかけに、きょうだいが勇気を出さないと言えないこと、例えば「家族がキライ」「ケアがイヤ」「結婚できるか不安」「親亡き後のケアはどうする」「助けて」といった声を上げられるようにしたかったんです。

私も最初は「きょうだいです」と言うには勇気が必要でした。「友達、両親、弟にどう思われて
もいいや」と、清水の舞台から飛び降りる思いでしたが、話したり本に書いたりするうちに、だんだん周りから理解してもらえるようになりました。

ルナ 身近にきょうだいがいると分かった時に、周りの人は何ができますか?

藤木 まずは「いる」ということを認識してほしいです。ルナさんもそうかもしれませんが、私も「幸せそうね」なんて言われると、「そうでもないんです」と言いたくなります。まずは気づいてあげて、きょうだいの会などを紹介してもらえたらと思います。本人が大人に相談しにくいようなら、「私から相談してみようか?困っていることある?」と声を掛けて、話を聞いてほしいです。ルナさんはヤングケアラーだった時、どんな支援が欲しかったですか?

ルナ 当時の私は「かわいそうな子」というレッテルを貼られたくなかったので、友達や学校の先生に相談できませんでした。確かに、声を掛けてくれる人、話を聞いてくれる人がいた
ら良かったなと思います。

藤木 同じ立場でなくても、話を聞いてくれる大人、お兄さん・お姉さんみたいな存在がいてくれるといいですよね。実は今回出版した本は、当事者にとってそんな存在なれたらと思って書いています。

本でなくても、自分の経験を話せるきょうだいを増やしていきたいですね。同じ立場の「ぴあ」同士が支え合うのももちろん大事ですが、いろいろな経験をしてきたきょうだいやヤングケアラーが10人いれば、相談者は「誰に話してみようかな」と選べるし、複数人の体験談を聞いて少しずつ共感できる部分があれば、“つまみ食い”できるかなと思っています。

さらに、語り合う場だけでなく、野球を観に行ったり、登山したり、いろいろな場所を作れたらと思っています。様々な境遇のきょうだいやヤングケアラーが、自分に合った場所で、人とのつながりを作ってほしいです。

原動力は「罪悪感」と「興味深さ」

ルナ 幅広い活動の原動力となっているものは何ですか?

藤木 子ども時代から振り返ると、あまりに知らなかったことが多すぎたなと。父は弟が弁護士になることを諦めてしまったのですが、今私は耳の聞こえない弁護士さんと一緒に働いています。「なんでそういう情報が子どもの頃になかったのかな」と思ってしまうんですよね。そういう運が悪かった部分もあれば、今は運が良いなと思う部分もあって。恵まれていることに対しては、弟にも社会全体に対しても「罪悪感」があり、それが原動力になっているのかもしれません。

あとは、客観的にきょうだいやヤングケアラーって面白い、新しい分野だと思います。障害のある人とない人の間にいて、たまたま自分が当事者になって、「新しい世界」「人間の生き方」「家族とは何か」など、“人間の機微”が感じられ、興味深いです。

ルナ 私もケアラー支援に関して130人以上の方々にインタビューしましたが、本当に興味深いお話ばかりでした。

藤木 「興味深い」と思えれば、恥ずかしさや声を上げてはいけないという気持ちもなくなって、少し楽になるのかなと思います。「かわいそう」という言葉も、人によってどう捉えるかで違いますよね。今はツイッターがあるから、昔なら言わないような「心のひだ」をつぶやける時代になりました。繊細な気持ちや、心の豊かさをみんなで共有できるようになったと感じます。

吉良 私はそれを「愛の社会化」と呼んでいます。介護や看護を家庭に閉じ込めるのではなく、社会全体で支えていく時代になるべきだと思っています。

「助けて」が言える社会へ

ルナ これからチャレンジしていきたいことはありますか?

藤木 今まで「弁護士である前にきょうだいである」と言い続けてきたので、これからはもう少し法律や弁護士の世界でケアラー支援について、草の根を広げていきたいですね。弁護士になって10年、きょうだいを知って10年。今は、きょうだいとヤングケアラーという自分の居場所ができたのが嬉しいんです。これからの10年は、自分より年下の人たちをサポートしたいという思いもあります。次の世代の人たちには、早いうちから「きょうだい」「ヤングケアラー」について知ってもらい、私のように悩んでほしくないです。

私は大学生の時、職業や住む場所など、自分の人生は自分で決めていいことを知らず、自分の幸せより家族全体の幸せを考えていました。私もそうでしたが、子どもの頃から家族の将来を心配するきょうだいが多いです。しかし実際には、全国きょうだい会の調査によると、「経済的負担は年間1万円以内」というきょうだいが8割以上と大多数であることが分かります(表)。多くの障害者は経済的に自立できているので、心配しないで自分の人生を生きていいことを伝えたいです。家を離れたいきょうだいがいるなら、どういう支援が使えて、どうやって生活を回すのかというモデルを作れたらとも考えています。

全国きょうだい会によるアンケート調査の結果はこちら

ルナ 少し大きな話なのですが、藤木さんはどんな社会を目指しているのですか?

藤木 本には「きょうだいが声を上げられる社会は、誰にとっても生きやすい社会」と書きました。「家族やきょうだいだから助け合ってね」ではなく、誰もが助けてほしい時に助けを求められ、実際に助けてもらえる社会を目指したいです。きょうだいやヤングケアラーが我慢して解決するのはおかしいと思います。さらに、障害のある子の両親や祖父母も、我慢しなくていい社会が理想です。

そんな社会を目指すには痛みを伴う場合もあります。権利を行使すると差別されることもあるため、それが権利として守られているわけです。例えば、きょうだいが自分の幸福追求権を優先して、障害のある人に何か悲しいことがあった場合、きょうだいは非難されるかもしれません。そこは弁護士としてきょうだいの権利が守られるよう、しっかりプッシュしていきたいと考えています。障害のある人とない人は、相対する関係ではなく、お互いの権利を大切にし、助け合える関係だと信じています。

ルナ 最後に、ケアラータイムズの読者にメッセージをお願いします。

藤木 良いか悪いか、周りに何を思われるかより、自分が何を選ぶか。きょうだいにもヤングケアラーにも、自己決定権や幸福追求権があり、自分の幸せは自分で決められます。適切な人に相談して、いろいろな情報を得た上で、人生の選択をしてほしいなと思います。

<藤木和子さんプロフィール>
弁護士、手話通訳士。全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会副会長。Sibkoto(シブコト)障害者のきょうだいのためのサイト共同運営者。聞こえないきょうだいを持つSODA(ソーダ)の会代表。耳が聞こえない弟と育った「きょうだい」「ヤングケアラー」として活動・発信している。

・全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会
 https://kyoudaikai.com/
・Sibkoto(シブコト:障害者のきょうだいのためのサイト)
 https://sibkoto.org/
・聞こえないきょうだいを持つSODA(ソーダ)の会
 https://soda-siblings.jimdofree.com/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?