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勉強するのは何のためか

10歳のいっちゃんに、勉強させる動機ってなんだろう…という、今更なんだよ、という問いを自分にしている。

こども時代、私は勉強の目的をはっきりとは持っていなかった。「自分が将来やりたいことをやるためには、嫌だけど必要なのかも」くらいの気持ちしかなかったから、親になって、きちんとこどもに示せないままでいる。

競争社会で生き残るために?私は今から、こどもをそこへ放り込もうとしているのか?「親は刃をにぎらせて 人を殺せとをしへしや」与謝野晶子の一文が思い出されて、悶々とする。

そんな逡巡の中、進研ゼミから有名なダイレクトメール漫画が届いた。いっちゃんは幼少の頃から進研ゼミを受講していて、つい最近退会したので、初めてこの漫画が届くようになった。

私はこどもの頃からこの漫画を読むのが大好きだった。読んだだけで自分も成功者になったような気分になるし、少し年齢があがってひねくれてくると、毎回同じオチになるのが楽しみで、突っ込みながら読む面白さもあった。

だから、漫画好きのいっちゃんも、そうやって楽しむかな?と思い「この漫画読む?捨てちゃっていい?」と聞いたら、「捨てていい」と言う。「えーなんで、面白いじゃん。おかあさん、昔この漫画読むのすごく好きだったんだけど」と言うと「どうせ下剋上なんでしょ」と言い放たれて愕然とした。

私のせいだ。

「中学受験する子は、今ものすごく頑張ってるんだよ」とか。「中学まではなんとかなるけど、高校になったらごまかしはきかないよ」とか(私のことです)。

そうやって脅かすような事を何度も言ってしまった。勉強とは、他人を蹴落とすことなのだと、私が教えたのだ。

私は丸一日、そのことを考えた。そして、遅いかもしれないけれど、きちんと訂正しなければ、と思い、次の日いっちゃんと話をした。

「今まで、いっちゃんに、勉強しないと将来好きなことが出来ないとか、頑張った人しか勝てないとか、勉強を怖いものみたいな言い方をしていて悪かったな、と思っている。ごめんね。

それで、どうして勉強が必要なのか、おかあさんなりに考えてみた。勉強が好きで楽しくてするのは良いとして、気が進まない場合、どう考えたらいいのかなって。

それで、勉強は、やっぱり武器だと思う。武器だから、いい使い方も悪い使い方もできる。知識や知恵を持つことによって、人を助けることもできるし、お金を独り占めするような使い方もできる。

だから、勉強する動機は人それぞれで、勉強する人全員が、人を蹴落とすためにやっているわけじゃないんだと思う。

それで、これは前から言っているけど、おかあさんは、勉強しない人生があってもいいと思ってて、絶対にやらなくちゃいけないとは思ってない。勉強しなくても、生きていける。幸せにもなれる。いっちゃんは自分で選んでいい。

それから、うちのニンタは障害があるから、もしかしたら、勉強という武器で人を助けることは出来ないかもしれない。助けてもらうことが多い人生かもしれない。でも、それは不幸じゃないし、家族とか自分の周りの人を幸せにすることもできるし、ニンタも幸せになれる。

いっちゃんは、勉強するかしないか選べるし、もし勉強するとしたら、それをどう使うかも選べる。人を蹴落とすために勉強する、と決まっているわけじゃないんだよ、ということが、言いたかった」

いっちゃんは、「ふーん」という感じで聞いていて「確かに、いつのまにか、おかあさんの言葉に影響されてたのかも」「まあでも、人に頼るのは苦手だから、助ける人になれた方がいいかな」と言った。

いっちゃんに言った言葉は、全部本心だ。でも、心の中に潜んでいるのは、これからずっと向き合わなければいけない「勉強」というものに対して、マイナスなイメージを持ちたくない、という願望だ。「勉強という武器で、人を助けることもできる」という考えに、逃げ道を求めている。

私は本当にわからないのだ。私は勉強が好きだった時期なんてないから、楽しさも教えられない。そして、結局は賢い人間が何かと有利だとも思ってしまう。きれいごとを並べても、現実は、我が子かわいさで勉強させたいだけなのだと思う。

でも、それをまるごと受け入れる事もできなくて、耳障りのいい言葉を探した。

親のエゴか自分の理想か、どちらにも腹をくくることができない私の言葉など、いっちゃんに届かなかったかもしれない。つくづく自分は甘い人間だな、と思う。

だから、これはもう祈りでしかないんだろうな、と思う。「学ぶことで人を助ける、そういう人がたくさんいる世の中でありますように」と。

そうじゃないことはわかっている。でも、理想はないよりあったほうがマシだ。諦めずに理想を語ることで、少しでも世界がそちらへ傾くことになったらいい。

少なくとも、自分の子に「他人は敵と思え」とは教えたくないし、敵味方などという時限を超えた崇高な人が居るのも知っている。世の中は真っ黒でもないし、真っ白でもない。

であれば、空虚だとしても、私は理想の方を語りたい。こどもがそれをどう受け止めていくかはわからないけれど、私は私の良いと思うことを選んで渡していくしかないと思っている。





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