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台湾語を学ぼうとしない在台日本人

 台湾に何十年生活していても台湾語を学ばない日本人が多いが、台湾語と台湾人の中国語は影響し合っているし、台湾語の知識がないとわからない台湾人の会話は多い。台湾語は話せないと言っている台湾人であっても、台湾語単語や台湾語的な表現を混ぜて話す。だから台湾語の知識がないと聞き取れない。台湾語の知識がないと、日本人や外国人向けに台湾人が気を使って台湾語を混ぜないようにして話す中国語しか聞き取れず、台湾人どうしの日常の会話や雑談はいつまでたっても理解できないままになる。自分に向けて投げかけられたことにしか答えられず、台湾人どうしの会話の輪にはなかなか入り込めない。こういう状況は台湾人家族と同居していたり、台湾人だけの会社で自分一人が日本人だという環境にいる人なら皆んな体験していると思う。

 若い台湾人がよく言う「私は台湾語かできないし、多くの若者も話せないよ !」 といった説明は信じないほうがいい。こういう話を信じて、台湾語に目を向けない日本人も多いのだが、日本人や外国人の台湾語ができないレベルと、若い台湾人の台湾語ができないレベルは全く違う。大阪出身でない日本人と日本語の共通語しか学んでいない外国人の大阪弁の理解度には歴然とした差があるのと似ている。「おおきに」をもっと買いなさい! と言われていると思って、大阪の商店やスーパーで必要のないものまでたくさん買ってしまった台湾人を知っている。

 若い台湾人は台湾語を流暢に話せないだけで、聞きとりはできる。下手だけど話そうと思えば話せるという人が多い。子供の時に周りが話す台湾語をよく聞いていたとか、子供の頃、台湾語を日常聞く環境にはいなかったけれど客家語は家庭内言語として使っていたという台湾人、逆に台湾語は話せるけど客家語は話せないという台湾人は使わざるを得ない環境に身を置けば話せるようになる。こういう能力も日本人とは全く違う。

 兵役に行くまでは台湾語が全く出来なかったけど、2年の兵役を終えたら話せるようになっていたとか、客家人と結婚して相手の実家で暮らしているうちに自然に客家語が話せるようになった…このような台湾人と数多く会ったことがある。しかし日本人はいくら中国語の達人でも語学学校へ行ったり、家庭教師について習ったり、教科書や参考書、辞書を買って熱心に勉強したり、訓練をしないと覚えられない。

 よく一緒にお酒を飲む義妹の上司がある時、彼の友人を2人連れてきた。その2人はずっと台湾語で話していたから、2人とも台湾人だと思っていたら、なんと1人の方はインドネシア出身の広東系華人だった。だから彼の母語は広東語で子供の頃はインドネシア語も話していたという人だ。小学校3年生ぐらいの時に両親と一緒に台湾へ移民して、ずっと客家系台湾人が多く住む地域で暮らしてきたそうだ。当然そんな年齢から台湾にいるから、学校を卒業した後は兵役にも行っている。台湾に来てからの生活で自然に中国語、客家語、台湾語が身についたそうだ。僕が聞く分には彼が話すどの言葉にも外国人の訛りは感じられなかった。

 この人のように母語が漢語系言語で、10代以前に台湾へ移住し、台湾の現地校でずっと教育を受け、卒業した後に台湾社会で働けば、各種の台湾の言語は自然に身につくのだろう。だが日本人の大人にはもちろんこういう能力は備わっていない。

 今、台湾語が本当に全くわからないというのは恐らく台北市内の小学生以下の子供に多いんだと思う。このまま台湾社会が何もしないで放っておいて、この子供たちがこのまま台湾語を全く習得しなかったら、彼らが社会に出る頃には社会の中心になる世代のほとんどの人が台湾語を使わないで、中国語だけで生活や仕事をしているのかもしれない。

 でも今現在、社会の中心にいる人たちの多くは日常、ほぼ台湾語だけを話していたり、中国語と台湾語のチャンポンで話し、仕事や生活をしている。台湾語が話せなかったら就職は難しい業界や業務もまだまだ多い。僕の妻は台北出身の50歳前半だが、兄弟、友人、同僚と話す時は中国語がメインだが必ず台湾語も混ぜて話す。自分の母親や親戚には全部台湾語だし、仕事上取引のある南部の業者と電話で仕事の話をする時も全部台湾語だ。

 これが60歳半ば以上や70歳代になるとプライベートも仕事もほぼ台湾語中心だ。この世代の友人、知人に言語事情を聞くと、台湾語が本当に全くわからない相手に遭遇した時にしか中国語だけで話すことはない!と言っていた。今、台湾社会で40後半から70歳前半ぐらいまでの人たちは生活上も仕事上もまだまだ台湾語を使う機会が非常に多いはずだ。80歳以上で母語が台湾語なら台湾語だけで生活している人も多い。もし、台湾生活が10年も20年も過ぎていて、台湾社会で台湾人と仕事をしている40歳後半から50歳代の日本人たちが台湾語の必要性を全く感じていないと言うのなら、僕はちょっと理解に苦しむ。

 仮に、今まだ40歳前後の若い日本人だとして、台湾語の話せない小学生たちが社会に出た頃、まだ台湾で仕事を続けているのだろうか?大人になった彼らと仕事上で付き合う可能性はあるのだろうか? 僕のようにもう年金をもらう世代だと、その頃この世に自分がまだ存在しているかも怪しい。でも、今の台湾はまだまだ台湾語が十分に使われている社会だ。だから僕は今現在、台湾では台湾語は重要だと思っているし、なるべく多くを身につけ、積極的に使っていきたい。

 それに台北市内のような都市でも台湾語は年配者同士の共通語という側面もある。だから若い人でも60歳以上の、特に男性には台湾語で話す場合が多い。年配者は若者には中国語で話しかけるが、自分と同じ世代、或いはそれ以上の年配者には台湾語だけで話す。僕は50歳を過ぎてから、見知らぬ人から台湾語で話しかけられることが本当に多くなった。


 

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