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日本語のダの発音を台湾人は「ッタ」だと思っていて、中国語や台湾語の「ッタ」の発音を日本人は「ダ」だと思っているようだ。

 「大」の中国語発音は「ダァ」ではなく、「ッタァ」。「大家好」の中国語発音は「ッタァッチアハオ」、台湾語では「逐家好(ッタッケェホー)」という言い方を使う人が多い。「大家好(ッタイッケェホー)」という言い方もあるけれど、僕は牧師さんが言うのしか聞いたことがない………韓国語の無気無声子音の発音を日本語仮名で書く時に「ッタ」「ッカ」と書いて説明している参考書がある。その表記の仕方を真似して中国語発音と台湾語発音を書いてみた。

 14年前に出版された拙著「台北美味しい物語」の中では中国語(もちろん台湾語も)の無気無声子音(発音時に吐息が出ない清音)の仮名表記を濁音仮名で代用するのではなく、すべて清音仮名で表現した。これを見た台湾生活の長い日本人同僚が「ああ、中国語って実はこんな感じですよね。他の本や雑誌で見るルビは私には実際の中国語発音とはかけ離れているなあといつも感じていたんです!」と言ってくれた。伝わる人には伝わるんだなあと思って、すごく嬉しかった。

 多くの日本人は無気無声子音(発音時に吐息が出ない清音)が何だかわかっていなくて、多くの台湾人は日本語の濁音がどういう発音なのかわかっていない。台湾人は中国語や台湾語の無気無声子音を日本語仮名で書き表す時に濁点を書くものだと思っている。 多くの台湾人の頭の中には濁音という概念が存在しないからだ。日本語べらべらの台湾人でも濁音が何なのかわかっていないことが多い。そして中国語べらべらの日本人も無気無声子音がどういう発音なのかわかっていないことが多く、中国語の無気無声子音は日本語の濁音と同じ発音でいいと思っている。同じ濁音仮名の文字を見てイメージする音は台湾人と日本人では全然違うのだ。

 台湾人が日本語濁音仮名の「ダ」という字を見たリ、音で聞いたら、「ッタ」(発音時に吐息が出ない清音のタ)という発音だと思い、この「ッタ」をローマ字で書き表す時にda(ウェード式ローマ字表記だとTaなのだが)と書く人が多く、日本人が台湾人の発音する「ッタ」を聞いたら何となく濁音の「ダ」に聞こえてしまう人が多く、また中国語ローマ字のdaを見たら、当然、日本語濁音発音の「ダ」だと思ってしまう。

 中国語には濁音発音はなく、有気音(発音時に吐息が出る)と無気無声音(発音時に吐息は出ない)の区別だけだ。これを知識として持っていても、敢えて無気無声音(発音時に吐息は出ない)の表現を日本語濁音仮名で代用する中国語話者の日本人もいるが、日本語を書く時に日本語の中の有気音と無気無声音の区別はしない。日本語では「タ」が有気音であっても無気無声音であっても、その違いを無視して「タ」と書いている。例えば「タック」の「タ」は有気音であり、「買った」の「た」は無気無声音である。

 僕はもし有気音と無気無声音の発音上の特徴を区別したいのなら、むしろ有気音(発音時に吐息が出る)の仮名表記を工夫するべきだと思っている。例えばカンマをつけて「タ’」にするとか。これは中国語発音を表すウェード式ローマ字ではT'aにすることに習っている。また、有気音の「タ」を台湾語の教会ローマ字で表記するとThaになる。無気無声音の「タ」はウェード式ローマ字ではTaになり、教会ローマ字でもTaである。

 中国語は主に有気音(発音時に吐息が出る)と無気無声音(発音時に吐息は出ない)の区別だけ(巻舌音というのもあるが)だが、台湾語は有気音、無気無声音の区別だけでなく、濁音もあり、入声音(促音、短音の一種)や特殊鼻音(鼻を摘んで発声するような音)の区別もある。日本語の仮名表記では正直言って正確に書き表すことは中国語より困難だと思う。発音の特徴を無視せざるを得ない部分がどうしても出てくる。僕は日本語仮名で台湾語を書く時には有気音と無気無声音の区別と特殊鼻音の表現は完全に無視して、入声音の細かい発音上の区別も無視して、どんな入声音でも全て日本語促音の表現を代用して、小さい「ツ」を書き加えている。台湾語の濁音の表現はもちろん日本語の濁音と同じ濁音仮名で書いている。


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