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泥斬り稼業

 ドブ長屋のクズ共が死んだ理由は三つある。五日続いた豪雨と、役人が積み上げた鉄屑と、貧乏。要は三つ目だ。もっとマシな所に住んでいれば崩れたゴミ山に潰されて死ぬこともなかった。泥油と混じって蘇り、俺のようなガラクタ人形に斬られることもなかった。

「五つ」

 無造作に蒸気刀を振る。何の抵抗もなく屍泥は斬り倒される。

「六つ」

 もう一匹。肩の歯車が軋む。

「七つ」

 半壊した天井から泥油が垂れ、鉄笠に落ちる。

「八つ」

 鉄笠の縁から泥油が垂れ、油だまりに混ざる。

 長屋の住人は八名。これで数が合う。蒸気刀の振動を落とし納刀する。屍泥は人間の形をして突っ立っているだけの木偶だ。害はないが邪魔になる。殺すのに技は要らず、始末に人が駆り出されることもない。単純作業は機械化すべし。泥油で出来た木偶の掃除は、泥油で動くガラクタの仕事だと俺を作った職人は吐き捨てた。そしてその職人も、ガラクタを作る単純作業を任せられたガラクタだった。

【続く】