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虚構日記「餃子食べ放題」

先輩に連絡をしたのはこの前のインターンの帰り道だった気がする。
朝から優秀な同い年に囲われて、おんぼろの濡れ雑巾みたいな顔色になってしまったわたしは誰かと繋がっている実感を得たかったのだ。

このところ先輩と連絡を取るのは少し控えた方がいいと思い始めていた。だからおとといLINEのトークルームのピン留めを解除したばかりだったけど、ちょっと下にスクロールしたらすぐ目に入る猫のイラストのアイコンが憎たらしい先輩を「飲みに行きませんか」と誘った。再びピン留めを設定した。

すぐに話はまとまり、餃子食べ放題の居酒屋に二人で行くことになった。

そんな流れでわたしは餃子をハイボールと共に堪能し、さっきまでのことを思い出しながら終電で帰宅している。

可愛いね。大好きだよ。
ホームに上がるエスカレーターで前に立つわたしに後ろから抱きつきながら先輩はそう言ったのだった。
相変わらず調子のいいことを、と振り返りながら文句を垂れようとするわたしの口は先輩の唇によって塞がれてしまった。ああ、憎たらしい。
唇を離す。目を合わせる。
でも先輩は、とわたしは続けた。

いつもならここで止まることができたのにな。
ふと自分の指先に目をやる。ネイルが剥がれてきている。ネイルを今更気にしている自分が窓ガラスに映ってなんだか滑稽である。車窓は他人行儀で、まだわたしを生活には帰してくれないみたい。

でも先輩は、わたしに「付き合ってください」とは言わないんでしょう?
酔っ払った先輩はふふっと笑った。
あれ、そこからどんな話をしたんだっけ。
ここからが大事なはずなのにな。
先輩の「もうしばらく餃子は食べなくていいかもしれない」「餃子をみると俺らは今日のことを思い出すんだろうね」という発言と、憎たらしいそのえくぼはしつこく脳にこびりついているのに。
しつこい汚れはアルコールが洗い落としてくれるのだろうか。

iPhoneが振動する。先輩からのLINEを知らせる通知。何かを期待している自分には気づいていないふりをする。

恐る恐る文面を確認した。
酔いが相当回っているのだろう。誤字は多いし平仮名ばかりだ。でも肝心な部分のメッセージだけはちゃんと読める。あのあと自分が何を言って、先輩がどう答えたかを思い出すには十分だった。
ああ、憎たらしい。

車窓に目をやる。
もう3駅で家の最寄り駅に到着するみたいだ。
周りの乗客はみんなスマホを眺めている。

降りそびれたとて、終点は最寄駅の隣だ。
これくらい小さな間違いならしても構わないだろう。
通知はオンのままにしたけれど先輩のトークルームのピン留めを外し、わたしは目を瞑った。
再びiPhoneが振動したが、気づいていないふりをした。

#虚構日記
#創作

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