シミシミ
先日、突然の危機に襲われた。
私はその日、珍しくワイシャツを着て正装をして仕事に出かけた。
私の職場は普段着で通勤していいことになっているので、いつもはかなりラフな格好をしている。
なぜその日に正装していたかというと、私の職場には都内にいくつも勤務地があるのだが、あまたいる若手職員が年に一度、一堂に会するお祭り的研修がその日にあり、私はそこに講師として呼ばれていたからだ。
そんな多くの人が集まるフォーマルな場において、さすがにいつもの格好でいくのはまずいと思い、正装をして出かけたのである。
そして朝ご飯を食べようと、研修場所近くの松屋に入った。私の朝ご飯はエブリデイ松屋である。ゆえに身体の3分の1は松屋である。3分の1の純情な松屋である。壊れるほど愛したらさすがに3分の1くらいは伝わると思う。
きっと流浪人もそう考えると思う。
とにかく松屋で朝ご飯を食べたいので、私がその日行くべき、数多の若手が集まる都内某所の研修場所の近くの松屋はどこにあるか、前もって調べていた。
これはこと松屋に関しては徹頭徹尾、用意周到であるという私の気質を体現している。
しかしここで大きな過ちを犯した。
松屋に関してはプロフェッショナルと自負している私らしからぬ凡ミスである。
若手の人に対する研修の講師を任されて張り切ってしまったのだろう、普段はやらないカレーの食券を買うという選択をしてしまったのだ。
いつもはソーセージエッグ定食一択なのに。
講師なんて身に余る役割を与えてもらったことで舞い上がったのだろう。
調子に乗りすぎと言わざるを得ない。どこかの球団のショートの選手くらい調子に乗ってしまった。
その上、調子に乗ったせいで私は松屋のカレーはルーがスープっぽいこともすっかり失念していた。
カレーのルーがスープっぽいということはどういうことか。
それはカレーのルーがスプーンから飛びやすいということである。
スープっぽいルーなんてルー的に言えば絶ボディ絶ライフである。
私は不器用であり、食事をする時にこぼしやすい。
スープは食事の中でもこぼし指数が高い。
夏の館林の熱中症指数くらい、スープっぽい食事の私のこぼし指数は高い。
案の定、美味しくカレーを食べている過程でいつしかルーが飛びちり、ワイシャツにシミを作ってしまった。
覆水トレーに帰らずだ。もうどうしようもできない。
これから偉そうに若い人たちの前で話そうとする時に、派手にワイシャツにシミをつけてしまった。
これはまずい。
研修中に若手の人たちから
「ねぇ見て!あの人なんか最もらしいこと言ってるけどワイシャツに黄色いシミついてるよ」
「やばっ!恥ずかし!あんな大人に絶対になりたくない」
「ワイシャツにシミつけつつ何を言っても1ミリも説得力ないよねー」
「まじキモい」「臭そう」「不潔」「シミシミうざい」などと言われてしまうこと必至である。
「シミシミ」ってあだ名はちょっとかわいい気がするが不名誉である。
どうしたら九デスにワン生を得るのだろうか。
私はここで閃いた。
ユニクロの駅ナカ店は朝早くからやっていることを思い出した。
ユニクロイズゴッド。ゴッドイズユニクロ。
神は細部に宿るというが神はユニクロに宿るのである。
ユニクロでワイシャツを買って、シミシミワイシャツを着替えてから研修に向かえばいいのだ。
いろいろ調べてみると東京駅のユニクロは8時からやっている。
私は急ぎ東京駅に寄ってワイシャツを買いトイレで速攻着替えて、都内某所の研修場所に馳せ参じた。
そして私はなんとか研修開始時刻に間に合い、きれいなワイシャツを着つつカバンの中にシミ付きのワイシャツを隠しながら若手に対して偉そうな話をしたのである。
幸い今年の職場の若手は優秀な人が多いので、そんなシミシミの話を頷きつつ熱心に聞いてくれた。
ワン件フォール着である。
ハッピリーエバーアフター(めでたしめでたし)
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