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おばあちゃんがくれた、ふわふわハンカチの正体。

「かしこいまりちゃんにこれをあげよう。」

そう言って今は亡き祖母は、幼稚園児だったわたしに、阪神百貨店の包みを差し出した。

祖母は百貨店が好きで、足腰弱るまではよく出かけていたものだ。

なんだろう…!
わくわくしながら包装紙を破る。

姿を現したのは綺麗にラッピングされ、お行儀よく箱に納まったハンカチだった。
黒地に華やかな花が描かれている、ふわふわのハンカチ。

(…あんまり好きじゃない。セーラームーンの柄とかが良かったな。)

5歳だったわたしは、内心少しがっかりした。
ただ、幼心にわたしを喜ばそうとしてくれたことは理解していたので、おばあちゃんにそのままの気持ちを伝えるのは、はばかられた。
ちょっと不満に思いながら、無難に「ありがとう。」と受けとったのをぼんやりと記憶している。

「何もらったの?」
と家に帰ってから母にそう聞かれ、無言でハンカチを見せる。

「ええのん、もらったね〜。けれどこれはお姉さん用のハンカチだから、お姉さんになるまで預かっとくわ。」

そう母は言って、いそいそとハンカチを仕舞いにいった。
特に使いたいと思わなかったので、しばらくするとわたしはそのハンカチの存在を忘れて時が流れた。

そのハンカチのことを、数十年ぶりに思い出したのは実は以前、noteである記事を読んでからだった。


読んで少し衝撃が走る。
ああ、あなたFEILER(フェイラー)って言うのね…!
(メイちゃんの「あなた、トトロって言うのね!」風に)


…そう、おばあちゃんのくれた高そうなふわふわのハンカチはフェイラーだったのだ。

ちなみに「なんか高いふわふわのハンカチ」が世間で店頭に並んでいることは知っており、その存在を認識してはいた。

大学生のときに、店に冷やかしでふらっと入って何気なく値段を見て驚く。

ハンカチ1枚に1600円…?
大体、1600円なんてデザート付きランチを食べれるし、店を選べば4回もカフェに入れちゃうじゃないか。

買うつもりがないのに、長居しては失礼だ。どんなリッチな人が買うんだろうかと考えながら、そそくさと店を後にした。

自分に縁のないものと決め込んでいたから、店の名前も見なかったので、もらったハンカチがその店に置いてあるものと全く結びついていなかったのだ。


月日を重ね、大人と呼ばれるのに充分な年になった。

そうやって1回フェイラーの魅力を知ってしまうとなんだか欲しくなってきた。

どんな柄があるのか見ていくうちに、オトナ可愛いフェイラーは、根強いファンが多いのだと知る。

雨粒さん改め中島浮世さんのこちらを読んでさらにフェイラーの魅力にきゅん…。


欲しいなあ、と思えばその方に向かって勝手にアンテナがにょきにょき伸びるのだろう。

ラッキーなことにたまたま通りかかった、様々なブランドの小物を置いている店で、フェイラーを2枚買うとちょっとだけ安くなるセールをしているのを見かけた。


フェイラー=あの花柄のイメージが強かったが、確かになるほど、花柄以外にも、お茶セットを模した柄、食べ物の柄、など個性溢れる可愛い柄がところ狭しと並ぶ。

なるほど、これは危険な沼だ。
あれも、これも、それも全部可愛い。

ほら詩人の金子みすずさんが言ってたじゃないか、
みんなちがって、みんな良い。
まさにそれ。
見ていたら、全部集めたくなってくる。

もともとハンカチは好きでたくさん持っている方なので、欲望のまま大人買いしてはだめだと自らを戒め、たくさんある中から時間をかけて選ぶ。

1枚は女の子の柄が可愛いな、と思ったのでそれを選んだ。


もう1枚は、やっぱり…これかなと手にとったのは、黒地に古典的な花柄のフェイラーらしい柄。

そう、おばあちゃんがくれたものと似たような柄である。

ちなみに、わたしが「お姉さん」と呼ばれるくらいの年になっても母からハンカチが手渡されることはなかった。
母がちゃっかり自分で使っているのを何度も目にしたから。

決して裕福ではなかったはずなのに、何でもない日のプレゼントにフェイラーを選んだ祖母。
もしかすると、彼女もフェイラーが好きだったのかもしれない。



でも幼稚園児にフェイラーは、やっぱり贅沢だよなあ、とこのふわふわの黒いハンカチを使う度にわたしは何だかおかしい気持ちになるのだ。

古典柄フェイラー


#エッセイ
#フェイラー

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