第18回: 2020年の総括

2020年12月29日掲載

新型コロナウイルス(COVID19)の感染拡大に揺れた2020年。日本だけでなく世界が一大商機と見込んでいた東京オリンピック・パラリンピックは延期され、インバウンドは消滅しました。日本政府による緊急事態宣言や自粛要請も重なって、日本の食を巡る環境は大きく変化しました。今年はどういった年だったのか。今回はフードダイバーシティ(食の多様性)対応メディアで読まれた記事のトップ10をご紹介しながら1年を振り返ります。

今年最も読まれた記事は「代替肉」

フードダイバーシティ株式会社が運営するWebメディア『Food Diversity. Today』<https://fooddiversity.today/>は当初「Halal Media Japan」として2014年元日から情報発信を始めました。その後17年からハラール(イスラム教徒も消費できるもの)に限らずべジタリアン(菜食主義者)やヴィーガン(動物性のものを取らない)なども含む食のルール全般に関する情報を発信しています。7年間で掲載した記事は1,500本以上で、うち20年は272本でした。当初は英語のみで発信していたことから読者の大半は訪日外国人と日本在住の外国人でしたが、後に日本語、マレー語、インドネシア語をベースに、一部記事はアラビア語、中国語でも発信するようになり、今では読者も多国籍で文字通りダイバーシティ(多様性)に満ちたものになっています。

第18回(通算59回)_図_スクショ

図は20年のアクセスランキングトップ10です。半数の5本がベジタリアン・ヴィーガン関係で、2本がハラール関係、残る3本がフードダイバーシティ全般の記事がランクインしました。中でも首位の「国内外代替肉メーカーの比較まとめ」は4月に掲載して以来、現在も相当数アクセスされている人気記事です。先行している海外企業とようやく動き出した日本企業からそれぞれ4社ずつを紹介し、「事実を伝える日本企業、未来を想起させる海外企業」といったセールスコピーの違いについても報じました。

また、日本と海外メーカーによる原材料の違いについても解説しています。それによると、海外勢4社は卵も乳も使わないヴィーガン仕様ですが、日本勢は3社が卵または乳または両方を使ったベジタリアン仕様の代替肉を販売しています。これは海外ではヴィーガンが急増している一方で、日本はまだそれほどではないといった状況が背景にあると考えられます。

オプションが始まった一年

ランキング2位は大豆ミートを使ったメニューに関するものでした。全国にチェーン展開しているドトールコーヒーが始めたとあって注目を集めたようです。同社は、野菜中心の食生活であるフレキシタリアン(少しまたは多めに肉食を減らしているというベジタリアン予備軍の人たち)に着目して開発したと述べていますが、動物性成分を使わないヴィーガン仕様にすることで、より広い消費者層に受け入れられています。これはようやく認知され始めたヴィーガンを前面に出すよりも圧倒的多数の一般消費者が関心をもつ「植物性」や「健康」のイメージを押し出すことで、前者を獲得しながら後者もターゲットとすることを狙ったプロモーションだったといえます。つまり、代替肉のような植物性食品を特定の人のみに向けるのではなく、その他大勢の人へ新しいオプションとして売り出したのです。

ランキング6位の焼肉用代替肉も同じです。焼肉店というおよそ植物性食品とは真逆の位置にある場所で「植物性」や「健康」をPRすることで、ベジタリアンやヴィーガンだけでなく一般消費者の「たまには」需要も取り込んでいます。実際私も植物性のハラミとカルビを食べてみましたが、見た目も味もお肉のそれとの違いがわからないほどでした。その上で感じたのは、「焼肉を食べたいとは、お肉を食べたいのではなくお肉の味を食べたいということ」でした。従って、お肉の味を味わえるのであれば、それが植物性であっても構わない。健康的なのであればむしろ植物性の方がベターだと感じました。このように、特定の消費者へ「あなたにも楽しんでいただけます」と伝えながら、他の消費者へは「新しいオプションです」と伝えるプロモーションが始まっているのです。

ハラール記事も健在、広がりつつあるフードダイバーシティ

ハラールについては4位に牛肉に関する記事が、8位にコンビニのお弁当に関する記事がランクインしました。この2つの記事の読者の多くはムスリム(イスラム教徒)だと推定されますが、彼らには肉料理が人気です。4位の「ハラール和牛攻略ガイド」ともいえる記事は、日本人でもあまり知られていないブランド和牛の特徴について解説し好評を得ました。8位の「セブンイレブン、ハラール弁当取り扱い店を関東エリア1050店へ拡大」は、長年待望されているコンビニでのハラール食品ニーズの強さを改めて示しました。フードダイバーシティ対応は訪日外国人だけではなく、日本在住の外国人にも望まれているのです。そう考えれば、対応している店舗はコロナ禍の中でも貴重な顧客層をつかんでいるといえるのではないでしょうか。

英国の経済誌エコノミスト誌が「2019年はヴィーガンの年になる」と予測したのは18年でした。あれから2年。今年日本がそのレベルに至ったとは言えませんが、年々ヴィーガンを含むフードダイバーシティについての認識は広がりつつあります。それは延期された東京オリンピック・パラリンピックの対策だけにとどまりません。コロナ禍がもたらした環境の変化に適応しようとする動きだと、私は感じています。そして先行きが不透明な21年は、そうした適応しようとする動きがさらに加速してゆくだろうと考えています。

掲載誌面: https://www.nna.jp/news/show/2135036


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