人生で初めて逮捕された①

小説ですと言いたいところですが、ブログです。まぎれもない事実であり、
自分の中でこのことを絶対に風化させないために、向き合うために文字に起こし記録し、公開しようと思いました。ただ、この一件は被害者様は勿論、関係者様が数多くおられますので、一部詳細な記述は避けています。

3週間程前、僕は人生で初めて逮捕された。
酒に飲まれ、暴れた結果、器物破損の罪で逮捕された。
業務終了後に同期と楽しく飲んでいた。
目が覚めると取り調べ室にいた。絶望した。
暴れた記憶はあった。が、本当に夢を見ていたのだと思っていた。
つい最近まで学生だった男数人の飲み会。社会人とはいえ
学生のノリが抜けきらない場面はあったものの、
若気の至りと笑い話になるような飲み会になるはずだった。
日常の一コマのような場面から一転して、地獄のような現実が
目の前に広がっていた。
目の前に警官が座っていた。が、うたたねをしており僕が目が覚めた
ことには気が付いていないようだった。
話しかけるべきかどうか悩んだ。自分が何をしたのか知りたい反面、
事実を受け止める心の準備ができていなかった。
何か大きな失敗をしたとき常に僕は希望的観測に縋る。
きっと酔っぱらって暴れただけだ、酩酊度合が酷かったので警察署で保護されているだけだ。このあと厳重注意を受け、何かを壊してしまったとしたら
後日それの弁済金の額の案内があるんだろう。壊したとしてもきっと誰かに大きな迷惑が掛かるようなことはない些末なことだ、すぐに笑い話になるようなことだ。それに学生の時に比べれば圧倒的に収入がある。今月は節約しないといけなくなるぐらいだ。早く家に帰って上司に報告しないと。自分が犯した罪を最大限過小評価して平常心を引き寄せた。

『あの、僕は何をしたんですか、、、』恐る恐る目の前の警官に尋ねた。
はっ、と目を覚ました警官は目を見開き『おお、目を覚まされましたか』
と背筋を正した。うたたねしていたことに少し罪悪感を感じているような態度だった。優しそうな、中年の警官だった。『ええと、、何も覚えてないのかな』自信のなさそうに聞いてきた。どこか抜けているような彼の雰囲気で少し自分の中に余裕ができた。『はい、、、覚えていません。申し訳ありません、、』第一声よりは大きな声が出た。彼は少し困ったような表情で『そうかぁ、、、あ、水もってくるね!』と彼は両手で膝を叩き立ち上がった。取り調べ室のドアを開き、『すみませーん、水取ってくるので見ててもらっていいですかー?』と恐らく部屋の外にいるであろう別の警官に声をかけた。どうやら取り調べ室には最低でも1人の警官が常駐しなければならない規則があるらしい。そうなんだ、と一人で関心していた。
彼が部屋を出ると交代で背の高い警察官が入ってきた。わずかながら緩んでいた緊張の糸が再度ピンと張られた。
『君、何も覚えてないの?』どかっ、と椅子に座り足を組みながら彼は訪ねてきた。
『、、、はい、、、申し訳ありません、、、、』
やはり何か大事をしでかしてしまったのではないか、微かにあった希望が揺らぎ始めた。
『おいおい、マジかよ』笑いながら長身の警官は言った。笑みを崩さず彼はつづけた。『君相当なことやってるよ、被害者さんからしたらトラウマもんだよ』。
”被害者”という言葉を聞いた瞬間脈拍が跳ね上がった。僕は誰かに直接的に危害を加えたのか、まさか怪我を負わせたのか、あるいは殺人?いや、死人が出ているのに犯人に対して笑みを浮かべるか?職業病のようなもので感覚が麻痺しているのか、まさかそんなはずがない。頭の中で仮説と反証が次々と折り重なっていった。
『僕は、その、特定の誰かに対して、なんていうか、物理的に危害を加えたってことですか?』震えながら聞いた。実際はこれの10倍は遠回りな聞き方で、どもりにどもりながら喋ったので正直何を言っているか第三者には理解できない発言をしたと思う。絶対にそんなことはしていないと信じたい反面、確証がもてないという不安がそうさせた。
『いや、それはしてないよ。』僕が何を懸念しているか理解しているというふうに彼はあっさりと答えた。一呼吸置いたあと『本当に何も覚えていないんだね、、』珍しいものを見るように彼は続ける『じゃあ俺のことも覚えてないってことでしょ?』
僕は彼の顔を縮こまりながらも上目遣いでじっと見つめ、彼の声を頭の中で繰り返し再生した。微かに見覚えと聞き覚えがあったのだ。
その時記憶の断片がフラッシュバックした。数人の警官に自分が取り囲まれている場面、警官たちの背後に見える自分が壊してしまった物、そして、今現在自分の目の前にいる警官に住所や氏名を聞かれている場面、答えながらやけにリアルな夢だとのんきに構えている自分。一気に血の気が引いていった。夢だと思っていたことが現実だった。飲みすぎて保護された記憶の断片が見せた悪夢ではなかった。間違いなく僕は暴れて人様の者を破壊した。
『思い出しました。』自分の記憶の断片を彼に話した。彼はじっと僕の目を見つめ真剣な顔で頷いた後こういった。
『他には?』
もう勘弁してくれ、これ以上何をしたっていうんだ。
きっとこれはハッタリを仕掛けているんだ、調子に乗った若者をビビらせようとしているだけだ、猛烈なスピードで肥大化する不安を楽観的な言葉で必死に封じ込めようとした。

当時のことを思い出しながら文章を書いていて本当に自分が嫌いになる。絶望的な現実から必死で目を背けようとする性格は中高生の頃からずっと変わっていないんだと痛感する。
ただ、この逮捕当日の絶望はまだ続く。

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