【Review】2018年J1第30節 川崎フロンターレVS.ヴィッセル神戸「想定を超えた川崎自慢の両SB」

 2018年J1第30節の川崎フロンターレは、5-3でヴィッセル神戸に勝利しました。今日はDAZNでの観戦でしたが、現地にいないことを後悔しまし。スコアだけ見てももちろん、内容もエキサイティングでした。大島の雄叫び、家長のイケメン発言など語るポイントは様々ありますが、ここでは普段通り、試合後コメントを元に試合全体を振り返っていきます。

神戸の思惑
 エース小林のPKで幸先良く先制した川崎でしたが、その後は神戸の守備に苦しみます。失点のシーンだけを見ればオウンゴールとスーパーミドル二発と悲観する内容ではないのですが、そこに至る経緯の部分では神戸の思惑通りの試合展開でした。

中村「自分たちが普段とは違う形でスタートした。向こうの出方がわからなくて、予想以上に手間取った。向こうの方が中盤の人数が多くて、こっちは2トップ。ボールを握られるところもあった。前半から攻撃に関しては、間をとったり背後をついたシーンは多かった、でも守備で握られるシーンが多かった。そこでちぐはぐさが出てしまった。それで3失点してしまった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第30節 vs.ヴィッセル神戸」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/30.html>)

 川崎はこの試合4-4-2のフォーメーションでスタートします。普段と違うとはいえ、最近何度か試して結果も出していることもあり、神戸は想定済みだったようで、中盤対決で主導権を握りにきます。特に人数を中央に集めて大島中村に良い状態でボールを持たせないようにしてきました。

リージョ監督「インサイドハーフの選手が中のポジションに入ってきて、2トップの選手、上がったサイドバックの選手達が最終的にエリア内にどう入っていくかということを常に伺いながらプレーをすることが出来るのが川崎というチームだと思います。とくに中村選手、大島選手から相手のサイドを切り崩していく選手に対して良いボールが配給されてくるということも明らかな傾向があるということを把握して臨んでいます。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第30節 vs.ヴィッセル神戸」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/30.html>)

 神戸はボールの出し手である二人を潰すことで攻撃不全に追い込もうと試み、まんまとハマった川崎はボランチの二人を経由した展開が困難になります。 その対応に戸惑う中で3失点を喫します。 より詳しくはサッカーアナライザーさんの記事をご覧ください。

徐々に対処する川崎

鬼木監督 「もう一つは、2トップで挑んだ中で攻守において少し間のところが、中盤とFWをつなぐところが少し足りなかった。そこのところが攻撃、守備において問題だったかなと思います。 」

(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第30節 vs.ヴィッセル神戸」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/30.html>)

 川崎は3失点後、4-4-2から4-2-3-1に変更します。これは中央に数的有利、そしてビルドアップの出口を作ろうとします。川崎は中央とサイドの両方の攻撃を見せ続けることで相手を嫌がらせます。4-4-2の時の欠点として中央からFWにパスが繋がりにくいというのがあります。一般には、片方のFWが引いて受けることでもう一方と縦関係を構築し、中盤とFWを繋ぐ機能を果たしますが、川崎のツートップはあまり縦関係を生み出すことはせず、相手最終ラインの裏を狙うことを重視します。特に知念は知念はスペースよりは、相手を背負ってボールを受けようとするので、あまり落ちたがりません。 


知念「2トップでハマらなくて、4-2-3-1に変えてからは、アキさんが落ちるので、自分が落ちなくてもいい。役割がはっきりした分、仕事もやりやすくなった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第30節 vs.ヴィッセル神戸」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/30.html>)

 そこで家長をトップ下、つまり中央を基本位置にすることで、中央での数的不利に対応します。 こうすることで神戸の中盤は守備の意識を分散せざるをえなくなります。同時にビルドアップの時に大島中村の両名が奈良谷口と同じ高さまで落ちることで相手プレッシャーを軽減します。 こうすることで川崎はパスの出し手の自由を増やし、次第にボール保持していきます。

川崎自慢のSB
 神戸としてはSBを低い位置に押し留めることで、サイドに展開された時にスライドが間に合うように守備を設計していました。 そのために中盤の配置に工夫をしたり、古橋の裏抜けで最終ラインを下げさせようとしました。しかし川崎がフォーメーション変更によってその守備からするりと抜け始めます。ただ鬼木監督の采配も優れていただけでなく、川崎の両SBの質の高さがリージョ監督の想定を上回ったからこそでもあります。
 登里は巧みなポジショニングで上手くパスコースを作って縦方向にボールを運ぶことで、三田のマークをくぐり抜けました。一方でエウシーニョは家長との連携もありつつ、個人能力で高い位置まで何度も運びました。本来であればこの二人を低い位置に止めるはずの作戦が、彼らの個人能力によって崩されてしまいます。ここからリージョ監督の計算が崩れ、神戸はサイドの守備に追われ始めます。

リージョ監督「ただ、一方で守備面で中盤が非常にスライドする必要があるという状況もありました。イニエスタとかが長い距離を比較的走ってスライドしていかなければいけない状況と三田のポジションのところで少しマークのズレがあったので、少し古橋を後ろに下げるとか、私達自体も守備の構造を変化しなければいけないという状況になってしまったこともありました。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第30節 vs.ヴィッセル神戸」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/30.html>)

 特にエウシーニョへの対応には手を焼いていました。彼が高い位置を取り出したのを見て、まずは元々の戦術を維持したまま彼に対応しようと試みます。途中ウェリントンやポドルスキーが左サイドの低い位置で守備をしていたのはそのためです。しかし川崎の陣形変更もあって次第に対症療法では無理と判断し、古橋を中盤に下げ4-4-2への陣形変更を選択します。これによって大島中村の警戒網が緩み始め、前半間際の失点に繋がりました。この得点は形、タイミングともに反撃の狼煙には十分でした。 


齋藤「前半のうちにアキさん(家長昭博)がゴールを決めて1点差にしてくれたことが大きかった。 」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第30節 vs.ヴィッセル神戸」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/30.html>)

そして終戦へ

小林「神戸とは目指すスタイルは違うと思っているし、守備も組織化されているのはうちの方。前半は相手も頑張っていたが、後半はうちのサッカーになった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第30節 vs.ヴィッセル神戸」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/30.html>)


 結果的に、神戸のフォーメーション変更で勝負がありました。共にフォーメーション変更をしましたが、それによって川崎は整理され、かたや神戸は崩壊するという正反対な結末を迎えます。川崎はフォーメーションを変えたことで守備も整理されました。家長が中央にいることで、ダブルボランチが共に奪いに行く状況が減りました。陰ながらサイドでもその役割をこなせるポリバレントな小林が光っていたことも忘れてはいけないでしょう。
 一方で神戸は初期守備隊形しか作り込まれておらず、4-4-2になった後は連動できずにいました。イニエスタは個人で中村大島への警戒を強めてはいたものの、それが空回りしてしまい、川崎に裏を突かれるシーンが目立ちました。齋藤の得点シーンはその裏でフリーでボールを受けた家長から始まっています。リージョは伊野波、アフメド・ヤセルを投入して安定した守備によるボール保持を目指しますが、それも叶わないまま試合終了を迎えました。


フットボールは美しい
 試合の概観の解説を試みましたが、途中をかなり省略しました。より詳細のレビューを他の方が書いていますので、ぜひ見てみてください。私自身も試合を見直し、様々な方のレビューを見て、この試合の凄さを噛み締めています。あまり見たことのないタイプの川崎対策と、それに対応してきたことを察知するリージョ監督はまだまだ奥が深そうです。
 最後に少し感想を。恥ずかしながら試合中に泣いてしまいました。単に興奮しただけでなく、何かこう美しいものを感じました。ロスタイムには良い意味で終わってほしくないと願いました。これは以前の自分ではここまでの感情は湧かなかったと思います。今年から川崎の記事を書くようになって、今まで以上に川崎のことを知ったことで溢れてきた感情だと思います。
 ですがこの感情の正体はまだわかりません。何に感動しているのか、この感動はみんなが持つものなのか、初見では伝わらない感動なのか、などなど。きっとこれらの感情を辿ると、フットボールは美しい、という想いに全ては通じている気がします。なんの根拠もありません。ただこの説明が一番自分の中でスッキリしたのです。だからこそこのフットボールの美しさをどうにかして多くの人に伝える。そう決意した試合でした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。残りシーズンもよろしくお願いします。

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