見出し画像

【Review】2021年J1第32節 鹿島アントラーズVS.川崎フロンターレ「1点差で安心できなかった鹿島」

はじめに

 2021年J1第32節の川崎フロンターレは、2-1で鹿島アントラーズに勝利しました。山村の秒速ゴールと宮城のスーパーミドルでの逆転勝利は、宿敵鹿島に苦手意識を植え付けるのには十分でしょう。

 一方の鹿島はACL権獲得に向けて手痛い敗戦。加えて1-0からの逆転負けは、チームとしてのアイデンティティを揺らがすような負け方なのではないでしょうか。試合後の雰囲気も合わせると、ただの1敗とは片付けられないかもしれません。

鹿島のイメージのズレ

 個人的な鹿島へのイメージとは異なる試合内容だったので、まずはそこから。鹿島といえば1-0に持ち込んだ後に試合の進め方が上手いチームだと思っています。スコア上の優勢をピッチに反映させて、そのまま勝ち切れるチームです。
 1点ビハインドのチームは同点を狙うためにリスクを負う必要がありますが、守備人数の減少やゴール前スペースの放置など、リスクを負って攻撃に出る時は何らかの歪みがピッチ上に現れます。そうした歪みを見極めて狙うのに鹿島は長けています。
 また、そもそも自陣ゴール前にボールを運ばせない技術も高いです。相手陣地でのボール支配率を高めたり、パスコースを遮断して相手に前進を許さないなど、様々な方法で相手陣地に押し留めることができます。ピッチの角での鬼キープや、テクニカルファウルで試合を中断させるプレーは、鹿島が試合巧者だと感じるシーンです。

 ただこの日の鹿島は1-0に持ち込んだ後の試合の進め方が曖昧に見えました。「1-0でも勝ち切れる」雰囲気はなく、攻撃の手を緩めようとしません。普段のように1点差で飄々と試合を進めなかったのは、川崎の攻撃力を警戒したためだと考えられます。
 ほぼ全ての試合で得点を取ることはJリーグ全体に強く印象づけられており、つまり川崎相手に1点差のリードが勝ちに繋がらないと各チームは思っているはずです。強豪鹿島もそうした意識を薄らと持っているから、先制後も攻撃の手を緩めなかったのでしょう。

 気になるのは、先制後のプランに対して選手間にズレがありそうだということです。これまで戦った鹿島であれば、1-0でそのまま勝ち切るのが基本線で、相手の隙を突いて追加点が取れれば御の字と考えていたでしょうが、この日はその基本が揃っていないように外部から見えました。また試合後コメントからもズレが窺えます。

アラーノ「あとは2点目を取ること。追加点を取るチャンスはあったので、そこの部分をしっかり勝ち切るということ。」
(引用元:Jリーグ公式「試合結果・データ>鹿島VS.川崎」<https://www.jleague.jp/match/j1/2021/092201/live/#player>)
安西「1-0で締めるのが鹿島らしいサッカーだと思うんですけど、今日はそれもできなかったので、逆に言えば完敗かなと思います。」
(引用元:同上)

 アラーノと安西の試合後コメントからは試合の進め方に差があるように見受けられます。もちろん短いコメントですので真意は分かりませんが、少なくともアラーノは勝つためには2点目を取ることが不可欠だと考えており、鹿島の基本線とは異なる印象を受けました。
 これは鹿島の意識統一の問題とも見ることができる一方で、あの鹿島の意識に対しても影響を及ぼすほど川崎が強くなったとも見れます。川崎サポーターとしては、楽観的に後者で思っておきたいものです。

ボランチの役割分担と守備意識

 鹿島はダブルボランチ共にピッチ全体に顔を出し、攻守ともに影響が大きい役割になっています。また攻守の割合は2人の間で大きく変わらず、守備を優先させる試合が多いです。それはここ数年の傾向としても見ることができます。

 ただピトゥカに関しては、攻撃面での期待値が高いせいか、相方の三竿に比べて前線に顔を出す機会の方が多く、逆に守備位置に戻らないシーンが散見されます。
 2失点目、宮城をフリーにした遠因がこのピトゥカの役割分担にあると思います。本人への期待値、そして自身の意識としても得点に絡むことに重きが置かれており、それは同点に追いつかれた後はより一層プレーに現れます。同サイドのカイキも前がかりになっていたことも合わさって、PA付近のスペースを空けてしまったのだと考えられます。
 本来ならどこかのタイミングでレオシルバを入れて、攻守バランスを整えたかったはずです。そうした対応を施さず、カイキとエヴェラウドの投入を優先させた判断は、個人的には意外でした。少なくともレオシルバを入れない理由はなかったと思うので、実は出場が難しかった可能性があります。実際、直近3試合は途中&数分の出場に留まっていたので、コンディションがあまり良くなかったのかもしれません。

 もう少し付け加えると、ピトゥカの攻撃比率を高める分、他で調整できれば問題ありません。たとえば左サイドに入ったカイキがより広いスペースを守るなどの選択もあったはずです。
 しかし実際にはその調整も上手くいきません。カイキに求められた守備期待値は分かりませんが、ピトゥカ分を補うほどではありませんでした。むしろカウンターの芽を摘むべき球際の争いで後手を踏む場面があり、自陣にボールを運ぶことを許していました

サイドでの1対1守備の違い

 川崎の失点シーンを振り返ってみると、クロスに対する上田のスペースメイクの上手さや、川崎守備陣のマークの問題などが気になりますが、ここではそのクロスに繋がったサイドでの1対1の守備について触れたいと思います。

 川崎のサイドでの1対1守備は、無理に数的有利を作らないのが一つの特徴です。ストレートに言うと「とにかく対面の相手に負けるな」です(笑)。もちろん抜かれた時の想定はしているものの、基本的には負けない前提で守備を設計しています。
 右SB山根は安西との1対1が多かったのもそのためで、逆に鹿島はそこなら1対1の場面を多く作れることがわかっていたから、安西を高い位置でプレーできるように試合を組み立てていたと思います。川崎の失点場面で安西に対面したのは旗手でしたが、同様に複数で抑える対応はしていませんでした。

 実は対照的なのが鹿島の守り方です。球際の強さのイメージから、同じように「とにかく対面の相手に負けるな」スタンスかと思いきや、意外と数的有利で対応します。
 ただ数的有利といっても、1対1.5くらいの状況を作ります。たとえば川崎左WGマルシーニョに対して、鹿島は右SB広瀬が対面しつつ、内に切り込むコースはボランチ三竿が遮断することで、マルシーニョのドリブルコースを限定します。つまり広瀬は縦突破に限定して守ることができます。その意味でマルシーニョは広瀬にドリブルを仕掛けているものの、実質1.5人くらいを相手にしているのです。
 ちなみに、この試合でマルシーニョと宮城がドリブルでのチャンスメイクが難しかった理由は、上記の鹿島の守り方を打開できなかったためです。相手が1.5人で来るならば、こちらも1.5~2人くらいで挑む必要がありますが、まだ左SB登里や旗手とのコンビネーションは発展途上です。連携が向上すれば、より多くサイドからチャンスが生み出せるでしょう。

 サイドの守備に話を戻すと、川崎が全く複数で対応していないわけではありませんが、鹿島ほど徹底していません。そして少なくとも今季はスタンスを大きく変えることはないと思います。
 もちろん鬼木監督もこの守り方のリスクは認識しているはずで、その上で他の方法よりもリスクが低いと見積もっているのでしょう。当然、鹿島のように攻撃精度の高い相手の場合は失点に繋がることもありますが、全ての失点を防ぐことはできません。何を守って、何を守らないのかを考えて守備設計しているはずで、個人的にこの失点は守らないと決めた範囲な気がしているので、切り替えようと思います。

谷口から感じる安定感の理由

 最後に蛇足ながら怪我から復帰した谷口についても少しだけ。山村もコメントしていたように、谷口がいることでチームに安定感があるように感じました。

山村「ショウゴ(谷口彰悟)は安定感をもたらしてくれる選手。チームを引っ張ってくれる一人。心強い復帰になったと思う。」
(引用元:川崎フロンターレ「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第32節 vs.鹿島アントラーズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/32.html>)

 特に谷口がいて良かったのが、終盤に訪れた数的同数or不利のピンチの場面。2、3度ピンチがありましたが、谷口の落ち着いた対応があったことで、首の皮が繋がったと言えます。
 たとえば76分、アラーノにPA内への侵入&シュートを許した場面ですが、あえてゴール前までドリブルをさせたように見えます。上田にクロスされるよりは、アラーノのドリブル&シュートの方が、谷口とソンリョン2人で対応できる分、失点の可能性は低かったでしょう。谷口もそうした判断から、すぐに寄せるのではなく、アラーノにシュートさせるようドリブルコースを与えたのでは?と思います。

 川崎はカウンターのリスクの大半をCB2人に対処させることで攻撃力の最大化を図っています。そのため谷口は数的不利の場面での守り方に慣れており、だからこそこの日も焦らずに対処できたのだと思います。
 車屋や山村、ジェジエウもCBとして負けず劣らず素晴らしい選手ですが、ピンチでの振る舞いの点では、谷口が経験値で上回っており、だからこそ他の選手よりも安定感を感じさせるのではないでしょうか。

おわりに

 宿敵鹿島にシーズンダブルを達成しました。しかも逆転勝利ということで、また苦手意識を植え付けられたのではないでしょうか。

 次節は等々力に帰ってきます。ルヴァン杯はつい先日開催されましたが、リーグ戦となると5/30の鹿島戦以来となります。
 残り9節となりましたが、その内6試合がホーム開催です。ここまでアウェイ続きで苦しんできましたが、ようやく慣れ親しんだ環境で戦うことができます。溜め込んだ鬱憤をホームのサポーターの前で晴らしてほしいところです。

いつもありがとうございます。サポート頂いた資金は書籍代に充て、購入した書籍は書評で紹介させていただきます。