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【Review】2021年J1第34節 川崎フロンターレVS.浦和レッズ「ノックし続ければドアは開くよ、みんなね。」

はじめに

 2021年J1第34節の川崎フロンターレは、1-1で浦和レッズに引き分けました。勝利は逃したものの、他会場の横浜F・マリノスがG大阪に敗れたことで、川崎フロンターレの2021年リーグ戦優勝が決まりました
 コロナ禍で厳しいシーズンで、途中心配の声も上がりましたが、終わってみれば1敗のまま優勝を決めることができました。これで2度目のリーグ連覇を達成し、来季はリーグ3連覇のリベンジに挑みます

ノックし続ければドアは開く

 川崎は8度の準優勝を経験してもなお、優勝を目指してノックし続け、2017年にドアをこじ開けてリーグ優勝しました。何度破れても絶望せずにドアを叩き続ける姿に、私は希望を感じ、今でもサポーターを続けています。
 そんな何度もノックし続けるマインドの重要性を感じさせる試合となりました。川崎は特に前半、試合を優位に運びました。相手目線ではリカルド監督が述べているように、浦和陣地からボールを出させないよう試合を展開します。

リカルド監督「前半は難しい展開でした。ボールを持ちながら、相手陣内にいく回数時間が短かったと思います。相手にボールを持たれて、深いところまで行かれてしまい、そのあとに素早い切り替えで奪い返しに行く。」
(引用元:川崎フロンターレ「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第34節 vs.浦和レッズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/34.html>)

 しかし押し込んだ展開とはいえ、浦和もラスト30mの守備は整備されており、決定的なチャンスまでは作れません。特に良かったのが川崎のIH脇坂と旗手への対応。IHの裏抜けに対して、ボランチとCBのカバーリングが速く、PA内でのフリーを許しません。また相乗効果として、浦和はSBが自身の背後を気にせずに前に出れるため、サイドのプレス強度を高めることができました。
 川崎としては押し込むものの得点の匂いがあまりせず、もどかしさを感じていたと思います。ただそれでも攻撃の手を緩めず、特にボールロストの後の守備への切り替えの早さを維持し続けたことで、浦和陣地でのボール保持を続けます。そうして押し込み続けた結果、セットプレーが続き、浦和の守備を崩すことに成功します。「できるまでやればできる」と言いますが、相手の守備が固くても、崩れるまで攻めれば崩れるのです。

 しかしそれは浦和も同様。理由は後述しますが、川崎は後半、浦和にボールを持たれる展開が続きます。浦和は前半から最終ラインのボール保持からのビルドアップは整理されており、川崎の守備が少し遅れただけでゴール前まで運べる力がありました。中盤のトランジション合戦に負けることが多かった前半に比べて、中盤でボールが持てる後半はより一層ゴール前に運ぶ回数が増えました
。しかし60分過ぎから、攻撃に強引さが出てきます。おそらくノックし続ける作戦に切り替えたのでしょうか、多少遠くてもシュートを打つシーンが目立ち始めます。チャンスでのシュート精度が上がりません。しかし60分過ぎから、攻撃に強引さが出てきます。おそらくノックし続ける作戦に切り替えたのでしょうか、 川崎としては前半自分たちがやっていたことをやり返されている形で、見事にやり返されてしまいます。もちろん局所的に見れば、自陣深くのスローインからの脱出に失敗したことや、旗手が、
 川崎に視点を移すと、引き分けの遠因として川崎はシュートを浴び続ける形を浦和に許してしまったことがあげられます。まさに前半の浦和と同様です。小林、大島を投入した時間帯にもう一度ボール保持したかったと思いますが、意図とは裏腹にロングボールでの脱出が繰り返されました。この辺りの耐え方は反省点になるでしょうか。
 川崎としては前半自分たちがやっていたことをや返されている形で、見事にやり返されてしまいます。もちろん局所的に見れば、自陣深くのスローインからの脱出に失敗したことが原因としてあげられますが、もう少し俯瞰してみると、押し込まれ続けたことの方が根本的な原因のような気がします。ノックし続けることで勝ちに繋がる反面、ノックし続けることを許すのは負けに繋がるのです。

横の揺さぶりからドアを叩かれる川崎

 浦和にドアノックを許した理由は、川崎がボール非保持の時、横に揺さぶられたためです。横の揺さぶりの成功要因の1つは、浦和のSBへのボール供給が整理されたことです。前半は川崎がシンプルにCBからSBへのパスコースを両WGで切って対応できていました。しかし後半からは浦和が手を替え品を替え、高い位置のSBにボールを供給することに成功します。たとえばショルツがボールを少しずらしてパスコースを作ったり、伊藤がIHを釣り出してSBにフリーを与えるなど、SBからボールを運ぶためのパターンが様々見られました。ここから浦和はSBの攻撃参加、そして相手陣地で試合を進め始めます。

 もう一つが川崎のプレス強度の低下です。特に3センターの疲労は顕著で、決定的に前を向くことは許さないものの、浦和中盤の選手がボールをもらう動きへの寄せが若干遅れ出します。
 これによって浦和の選手はターンできる時間とスペースを手に入れます。ビルドアップの出口となることが多い江坂や平野は、ボールの受け方だけで進行方向を変える力を持っており、彼らが中継地点となってチームの舵を切っていました。彼らのターンにより浦和はサイドチェンジが容易になり、ピッチ横幅を広く使って攻めることができました
 逆に川崎は片側に圧縮した守備ができず、徐々に中盤が横に広がっていきます。広がってしまうとゴール前のエリアが空き、CBが守るべき範囲が広がります。71分の江坂がPAに進入した場面では、橘田が守るエリアにジェジエウが出ざるを得ない状況によって生まれていました
 そうした状況を打破するための動きとしては、旗手がWGに移動してから、はっきりと横方向にパスコースを遮断する動きを繰り返していました。これはおそらく横の展開を制限したかったのだと思います。

何度もドアを叩ける浦和

 浦和の攻撃は非常に論理的で再現性が高かったと思います。特にゴール前でのチャンスが明確にイメージされており、そこを起点として逆算されていたのが印象的です。最もイメージを体現できていたのが71分の場面でしょう。川崎CBを釣り出してできたPA内のスペースを攻めて最短距離でゴールに迫る動きは、この試合で何度も狙っていたプレーでした。
 チャンスを作れていた分、最後決め切るという点で物足りなさは残りました。もちろんユンカーがいればという部分なのでしょうが、江坂も得点能力が高い選手ですので、リカルド監督としては十分得点できる算段だったはずです。

 他方で決めさせない川崎、特にソンリョンの凄みも光ったと思います。一つは近年向上している裏抜けへの反応で、この試合でも飛び出しによって相手にプレッシャーを与えていた場面がありました。
 さらにもう一つが元々定評のあるシュートセーブ。後半多くのシュートを浴びても大崩れしなかったのは簡単にこぼさないソンリョンのキャッチング能力があったからだと思います。こぼれ球を狙う浦和選手に隙を見せないプレーは、表に出ないファインプレーでした。
 厳しいことを言えば、逆にキャッチできず、かつ弾き出せなかったのが失点の場面。解説の福田さんが「もうちょっとチョンソンリョンが上手い逃げ方ができたらよかったかな。」とコメントしていたように、難しい場面だと理解した上で、欲を言えば遠くに弾き出して欲しかったシーンです。キャッチングと迷ったようにも見えました。

苦しみを耐え忍ぶ鬼木監督のパーソナリティ

 最後に、優勝したからというわけではありませんが、鬼木監督の凄さを少しだけ。この日の下のコメントから、鬼木監督の忍耐力の高さを感じますし、それこそが今の川崎を根底を支えていると強く思います。

鬼期監督「ただ焦ると、人は育っていかない。そこのせめぎ合いを意識しながらマネジメントしていました。そこはカオル(三笘薫)やアオ(田中碧)が抜けても、最初は今まで通りと思っていましたが、そこは少し我慢の時期という表現で、少し勢いは足りなくなっても、ここを耐えれば、次にまた伸びていくよと。あまりプレッシャーを与えすぎないような形に進めました。それが選手に届いているかどうかはわからないですが、自分の中ではそういうイメージで、焦れずにやりました。選手を信じていれば必ず良い結果が生まれると思います。選手を信じることが大事だと、そう信じてこの5年やっています。」
(引用元:同上)

 プロスポーツ選手は個人事業主で、成長も自己責任だと捉えられがちですが、成長には環境も重要であり、監督の影響は非常に大きいはずです。そんな監督という立場にいる鬼木さんが、人を育てる意識を持ち、考えていることが何よりも大切だと思います。
 今季は選手の移籍がある中で、外野からの声も大きかったでしょう。そんな中でも選手にチャレンジを求め、ミスを認め、改善を促す。そうしたサイクルを我慢して続けられたことが、リーグ優勝に繋がったと感じています。
 コロナ禍もあって苦しかった今シーズンを乗り越えて優勝できたのは、クラブにとってまた一つ財産が増えました。主力が抜けても耐え忍んでチームが成長した経験は、また訪れる苦しみを乗り越えるための糧になるはずです。欲を言えば、この経験を鬼木監督のパーソナリティに依存するのではなく、クラブの文化として定着できるように、伝え広めて言ってほしいと思います。

おわりに

 引き分けに終わった悔しさはあるものの、2021年リーグ戦優勝には変わりありません!等々力で優勝を決めさせてくれてありがとう、ガンバ大阪。
 ちなみに勝って優勝(2020年)、負けて優勝(2018年)、そして引き分けて優勝(2021年←New!)と、着々と優勝パターンを増やしているみたいです笑

 さて今シーズンはリーグ戦(4試合)と天皇杯(最大2試合)を残すのみとなりました。 特に天皇杯は連覇がかかってますし、さらに決勝で浦和との再戦があるかもしれません。この日だけでなく、ルヴァンのリベンジもあるので、互いに勝って決勝で対戦できるのを楽しみに待ちたいです。

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