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【Review】2021年J1第35節 サガン鳥栖VS.川崎フロンターレ「何事もやり過ぎは禁物」

はじめに

 2021年J1第35節の川崎フロンターレは、1-3でサガン鳥栖に負けました。優勝決定の翌節で調整が難しかったせいか、立ち上がりから失点を重ねて前半で3失点第26節アビスパ福岡戦ぶりの今季2敗目となりました。

 一方のサガン鳥栖ですが、まずはガードオブオナーを実施いただきありがとうございます!多少賛否がある中、準備いただき拍手を頂戴し、リスペクトを感じました。
 とはいえ試合ではリスペクトし過ぎて萎縮することなく、むしろベストなコンディションで臨んでいたように見えました。川崎としてはこの試合への準備、特にメンタルの部分で差が出ました。

リスペクトし過ぎなかった鳥栖

 この試合のキーマンは鳥栖の飯野で間違いないでしょう。初アシストとは思えないくらい良いクロスを上げていました。積極性も高く、この日をきっかけに今後どんどん得点に絡みそうな気がします。

--これまでもアシストがついてもおかしくないプレーはしてきましたが、初アシストを記録しました。
飯野「うれしいというよりは、ホッとした気持ちです。」
(引用元:Jリーグ公式「試合結果・データ:鳥栖vs.川崎」<https://www.jleague.jp/match/j1/2021/110720/live/#player>)

 鳥栖はキックオフ直後から前線の選手がプレスをかけ、ショートカウンターで攻め切る姿勢を見せていました。2トップと2シャドーのプレスに両WGが連動することで、川崎にビルドアップを許しません。結果、サイドでボールを奪うことが多く、飯野の攻撃参加の機会を作り出すことに成功します。

--飯野選手が決定機を作り続けていたが、狙い通りだったのでしょうか?
金監督「川崎に勝つとしたら、高い位置からプレッシャーをかけて入れ切るしかないと僕は思っています。後半を見ればわかるように、引いて守れる相手ではないので。前半から行ってリードしようというプランもありました。」
(引用元:川崎フロンターレ「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第35節 vs.サガン鳥栖」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/35.html>)

 鳥栖としては川崎相手に狙い通り前半で勝負を決めることができました。さらに後半は川崎がシステム変更と怪我人に苦しむ展開となったため、90分間優位を保ったまま試合を進めることができました。
 そうした戦いをできたのは、金監督の下のコメントに尽きると思います。優勝チームという肩書きを過度に意識せず、すべきことを絞ってやり切る。この誠実な姿勢が勝利をもたらしたのだと感じます。

金監督「90分を通して選手が、相手に対してリスペクトし過ぎず、今の我々ができることを精一杯トライしてくれました。戦術的にも、肉体的にも、相手を上回ることができたので勝ったのだと思います。」
(引用元:同上)

どうしようもない失点を過度に気にしない

 川崎としてはどういう対応をすべきだったのかは難しい気がします。1失点目については股抜きだったので、CBは対応しにくかったはずです。強いていえば、山村と車屋のPA内の駆け引きで相手FWに後手を踏みがちな部分は今後の課題でしょうか。相手陣地に押し込むスタイルが、PA内での勝負の回数を減らしており、結果的に場数が踏みにくい状況はありそうです。

 他方で2失点目は正直割り切っていいと思います。そこまで深く進入していなかった飯野に対してプレスをかけるべきと言うのは少し酷でしょう。サイドに深追いすることで中央を空けるリスクの方が大きい気がします。
 サッカーには点と点で合わされたらどうしようもないゴールがあり、酒井のゴールはまさにそれに当てはまるものです。そこまで防ぎ切ろうとするのは、風邪を引かないために家に篭り続けるようなもので、逆に何かを失うでしょう。

 この試合の反省点は1失点後に追いつけなかったことでしょう。遠野と小林にそれぞれ1度ずつ決定機があり、どちらか一方を仕留めていれば、また違う展開になったはずです。
 そう考えると、鬼木監督としても反省が難しい試合でしょう。この日の失点を全て防ごうとするとこれまでの良さを失いかねません。発生頻度の低い問題に過度に対応しすぎると、別な問題を引き起こすことは日常でも起こり得ます。そうならないように、問題の大きさを適切に見極めてほしいです。

前半攻勢に出れなかった2つの要因

 前半川崎が押し込まれた要因の1つが、鳥栖のロングボールの競り方です。自陣からのロングボールに対して、競り合う選手の裏に別な選手を走らせます。そして競り合いでは勝ち切るのではなく、触って逸らすことを優先します。
 逸らすことが狙いのためジャンプに専念できるのか、山村と車屋が空中戦で先に触られるシーンがいつもより多かったように感じました。空中戦の勝率が高いことが試合の前提となっているので、そこを崩されたことで川崎はいつもと違う戦い方を強いられます。

 もう1つ挙げると、小林が1トップの時のボールの収め方です。ビルドアップが阻害される中で、前線にボールをどう運ぶのかが一つの論点になりますが、この試合はそこが上手くいきません。
 悪球でも収め切る確率の高いダミアンに対して、最近の小林は収められる部分が少ないです。加えて家長が不在の分、川崎の選択肢が少なく、鳥栖は小林に狙いを絞りやすかったと思います。
 ただ小林が悪かったと言うつもりはなく、むしろエドゥアルドの対応が良かったことを褒めるべきだと思います。背後のスペースをGK朴に任せられる分、前に出て相手を潰すプレーに専念できていました。1対1で小林にボールキープを許す場面はほとんどなかったのではないでしょうか。

鳥栖に突きつけられた来年の課題

 鳥栖に対して、ボールの持ち方が上手く、プレスを受けても焦らない選手が多い印象があります。それは元々ボールの扱いが上手いのもありますし、金監督がボール保持時のポジショニングを整備しているのも一因でしょう。プレスを受けても味方のパスコースを常に作れているので、精神的に楽なのだと思います。
 特に仙頭は中央でのサポートが上手く、周囲の選手に逃げ道を与えることに長けていました。アンカーの樋口の上手さに目がいきますが、仙頭などの周囲のポジショニングがあってのものです。金監督が「整備」という言葉を度々使用していますが、チームとしての形が浸透しているように感じ、それが鳥栖の強さの源泉になっているのでしょう。

 そうしたチームに対して今の川崎は優位性を保てません。鬼木監督の元、球際の厳しさと、前からプレスをかけてボールを奪う方向に成長してきました。それはプレス耐性の高いチームが少ないJリーグの環境においては有効な戦術で、それが最近の成績に繋がっていると思います。
 しかし鳥栖のようなチームが出てきてJリーグの生態系が変わると、一気に川崎の優位性は下がっていきます。今季だと浦和や大分も似た性質を持ったチームで、鬼木監督も危機感は持っていると思います。来季も優勝するには、この日の鳥栖に勝てるようになる必要があります。同時にプレス強度の高さで勝ち切ることもキープしなければならず、来年も一筋縄ではいかなさそうです。

おわりに

 昨年に続いて優勝直後の試合で勝利を収めることはできませんでした。外からは見えない部分ですが、やっぱり優勝直後もモチベーションとコンディションをキープし続けることは難しいのかもしれません。変わらず連敗しないように引き締め直したいところです。

 あとはジェジエウの怪我は非常に気になります。ピッチで痛がる様子は、いつしかの中村憲剛に重なってしまいました。選手の怪我のシーンは突如訪れますし、何度見ても慣れないです。。早期の回復をお祈りします。

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