見出し画像

【Review】2019年J1第7節 川崎フロンターレVS.サガン鳥栖「個人的なことはチームのこと」


じめに

 2019年J1第6節の川崎フロンターレは、1-0でサガン鳥栖に勝利しました。
 まずはなんといっても知念の3試合連続ゴール。ダミアンに刺激を受けたのか、ようやくエースらしくなってきました。このままいけばコパアメリカ召集も夢ではないはず。期待したいです。
 対する鳥栖は順位こそ18位で得点も少ないですが、チームとして見れば決して弱くありませんでした。選手個人の動きは良かったので、カレーラス新監督のイメージが共有され、彼らの動きが噛み合えば復調するのではと感じました。

低温を維持したかった鳥栖

 ここまで6試合でわずか1得点の鳥栖にとって失点の意味は大きく、そのため試合を低温に保とうとしました。鳥栖の狙いの一つがボールサイドに寄っている金崎にボールを預け、そこを起点にした攻撃への移行がありました。しかし低温に保とうとしたために守から攻への切り替えは少し遅く、金崎が孤立するシーンが何度も見られました。
 もちろん金崎のポストプレーから何度か決定機が生まれました。金崎は中央からサイドに流れながらボールを受けることで、川崎のCBを釣り出し、ゴール前にスペースを空けようとしました。前半32分の金崎のシュートは、金崎と同じように高橋秀人が中央からサイドにマイケルを釣り出したことで生まれており、鳥栖の狙いの一つでした。ちなみにマイケルが試合後に反省していたのはこのシーンだと思います。

マイケル「個人的には前半、守備でヘディングで外にクリアすればいい場面で、内に入れて相手ボールになることがあった。」
(引用元:

 一方守備では、欠場した谷口に代わって出場したマイケルを狙うかと思いきや、鳥栖は川崎のCBにプレッシャーをかけることは少なく、ボランチ、特に大島に前を向いてボールを持たせないことを優先します。この作戦において重要だったのがダブルボランチの高橋秀人と高橋義希。彼らは全体が間延びしないようにしつつ、大島に目を光らせ続けました。

高橋義希「相手のボランチに自由に持たれてしまったら厄介になるというのがあった。もちろん、ボランチが2枚とも出ないようには意識していたけど、一度出てしまったシーンがあって、そこでは中央をやられてしまった。2人のバランスはすごく意識していたし、中盤4人のクサビのところは狙うように監督からも言われていたので、意識していました。」
(引用元:Jリーグ公式HP「試合結果・データ:鳥栖vs川崎」<https://www.jleague.jp/match/j1/2019/041402/live/#player>)

 鳥栖は中央に密集気味の陣形を維持し、サイドでボールを持たれることは許容していました。おそらく中央を閉じている分、前節の奈良のように、CBから直接FWに届けるパスは怖くないという判断だったのでしょう。実際奈良から知念や小林へのパスがカットされるシーンが何度かありました。

クエンカが奮闘するも。

 川崎が攻撃の糸口を見つけられなかったこともあり、前半は低温のまま終わりました。しかし後半早々に温度が上昇してしまいます。川崎陣地だったために警戒が緩んだのか、鳥栖はフリーの大島のロングパスを許し、そこから知念にゴールを決められました。こうして鳥栖は自分たちから動くしかなくなりました。

--相手は背後を取るのもうまいが、それよりも出し手を制限することを意識していた?
高橋義希「相手が低い位置だったらそこまで追わなかったけど、少しでも高い位置で受けようとしていたら行くことは意識していました。
(引用元:Jリーグ公式HP「試合結果・データ:鳥栖vs川崎」<https://www.jleague.jp/match/j1/2019/041402/live/#player>)

 鳥栖は後半20過ぎからクエンカの位置を下げて攻撃のタクトを振らせました。そのための布石が後半16分の原川と小野の交代。クエンカがFWから中盤に落ちる分、前線で受ける選手が必要になるため、原川よりもFWに近い動きができる小野を入れたのだと思います。
 ただ小野が奈良相手に競り勝てなかったために試合を難しくしてしまいました。戦術クエンカに変更後も、焦りからか鳥栖はシンプルに前線に蹴り出すことが多く、小野は奈良と競り合わざるを得なくなりました。そのため徐々にボールを手放す回数が増え、結果的に自らを苦しめたように見えました。もし豊田がいれば試合展開は変わったでしょう。
 たらればは置いておいて、クエンカが中盤でボールをキープすることで、攻撃にリズムが生まれたのは事実です。いままでのイメージとは異なり、ボールを大事にキープしながら攻撃の糸口を探す鳥栖の姿は新鮮に映りました。きっとカレーラス監督の色なのでしょう。
 しかしながらまだ発展途上な感じは否めず、これまでとこれからの狭間で苦しんでいるように見えました。欲しいタイミングでもらえずにクエンカがイラついていたのは、まさにこのチームの迷いから生まれたものだと思います。

うまくサボりはじめた大島

 鳥栖に対して川崎は試合の進め方に悩みながらも、決定的に困らせられてはいなかったと思います。もちろんピンチはありました。リーグ戦初スタメンのマイケルの裏を狙われることが多く、2本ほど決定機を作られてしまうなど、これまでの安定感が少し揺らいでいました。
 それでも困らなかったのはサイドでゆったりとボールを保持できたからでした。前節でも触れましたが、川崎の弱点は右サイドで落ち着いて持てないことで、右サイドを起点に攻撃されることが今年のよく見る光景です。ところがこの試合はサイドにゆとりがあったので、落ち着いてビルドアップができました。攻撃時のCBの幅がいつもよりも広かったのもこの余裕からかもしれません(マイケル固有の距離感かもしれません)。
 そんな中で躍動したのが復帰した大島でした。ダブル高橋の警戒を逆手にとって、あえて自分がサイドに逃げて彼らを釣り出すことで中央のスペースを空けて、そこを阿部や家長に使わせたり、サイドでフリーなら直接FWにパスを届ける(これは得点に繋がった)など、鳥栖の狙いを読みきった上でプレーしているように見えました。
 この試合の大島を一言で表すと「バレずにサボっていた」です。別な言い方だと周りを使っていたといえます。たとえば昨季後半から見せていましたが、パス&ゴーを最近はしません。大島は自分が動くと相手が付いてくると分かっているので、わざと動かないことで味方のスペースをつぶさないようにしています。
 守備面でも下田や田中に任せるところは任せて、自分が出なきゃいけない場面を減らしていました。代わりに相手の攻撃を誘導するようなポジショニングを取ることで、後ろが守りやすい状況を作ろうとしていたと思います。
 以前も書きましたが川崎の戦術だとボランチの負担が多いので、たしかに10.624kmも走っています。しかしその大半はジョギングで、この試合ではスプリント回数は1回のみでした。事前の動きと指示を的確に行うことで、ダッシュに頼らない省エネプレーを身につけようしている最中だと思います。これは長いシーズンのためであると同時に、1試合の中で戦い続けるためでもあります。そう考えると怪我明けの大島ではなく、下田に代えて田中を投入した鬼木監督の采配には、大島の意図を汲み取った上でのフルで出続けてほしいというメッセージだったのかもしれません。

個人的なことはチームのこと

 最後に、最近の小林が気になります。小林からは以前もあったように、個人とチームのバランスでまた悩んでいるように見えました。FW争いの激化と役割の多様化、そして変わらぬキャプテンの重責が小林を悩ませているのでしょう。ゴールを決めることでチームを引っ張ると決めた小林でしたが、今はそれができず、むしろそれ以外を求められています
 この試合では途中から知念とのツートップを組み、よりゴールに近いエリアでプレーしていました。しかしあまり息が合わず、決定機はありませんでした。これは知念のラストパスの精度の低さや、小林の理解者である中村の不在などが原因の一つでしょう。
 単に調子が上がっていないようにも見えます。二つ名に「夏男」と呼ばれていますが(多分)、シーズン後半に向けて徐々に調子を上げる小林の姿が、サポーターであれば思い浮かぶでしょう。たとえば後半57分、下田のクロスに飛び込んだシーンは絶好調なら決めていたでしょう。惜しいところまではいけているので、あとは調子を上げるだけと楽観視することはできます。
 しかし個人の問題に片付けていい話ではないと思います。いまの川崎はゴール前のラストプレーの課題に手が回っていません。 ACLコメントにあったように(試合は見てません)、チームとして攻撃の問題にはまだ切り込めていないように見えます。

小林「最後に失点したのは残念だが、それ以上にボールの動かし方、攻め方を問題にした方がいいと思う。ただ、すぐに大会が変わってリーグ戦があるので、切り替えるしかない。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 ACL 第3節 vs.蔚山現代」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/acl/03.html>)

 すごく大雑把にいえば、問題はゴール前最後のところで共通認識がない、つまり目が揃っていないことです。ゴールから逆算して試合を設計できないのがいまの川崎です。なので攻守の切り替えなど、昨年からの積み上げに頼った戦い方にならざるを得ません。
 そうしたチーム状況で小林がただの便利な攻撃の選手になりつつある気がします。たしかに小林はFWだけでなく、ハードワークできる右サイドハーフとしても価値があります。しかしそうすることで決意のキャプテン像からどんどん離れているのではないでしょうか。
 ダミアンの加入、知念の成長があった今季のFW争いに、本当は純粋に挑みたいのではないでしょうか。正々堂々と戦いたいのではないでしょうか。きっと一旦FWとして仕切り直せれば良いのでしょうが、キャプテンという立場、そしてチーム事情を考えるとそれはできません。
 これは決して個人の問題ではないです。チーム全体を考えなければ解決しない問題です。これに鬼木監督がどう対処するのか、見守りたいと思います。

おわりに

 これでようやく2勝目。ただ昨年、一昨年の同時期と比べて勝ち点はあまり変わらないので、必要以上に落ち込む必要はないでしょう。しかしまだまだチームの試行錯誤は続きそうですので、ハラハラした試合が続くことは覚悟しておいたほうがいいと思います。
 これからの連戦が良い方向に転ぶためにも、この勝利を少なくともメンタル面の浮上のきっかけにしたいところです。そして前線の選手が輝く場を整うように、チームが進んでくれることを願います。

いつもありがとうございます。サポート頂いた資金は書籍代に充て、購入した書籍は書評で紹介させていただきます。