見出し画像

社会によって異なる子ども観―日本の子どもとタイの子どもの敬語の話ー


 子どもが、両親以外の大人と接する機会が日本よりも多いように見えるタイ。公衆の場に子どもがいることは割と当たり前で、子どもがいるだけで迷惑になるという感覚はありません。仮に走り回ってしまったり、大きな声が出てしまったとしても、周囲は「元気がいいねぇ」と暖かい目で見守っていることがほとんどで、なにかあれば「危ないですよ、気をつけて」と子ども本人への声かけがある。「うるさい」「やめさせてください」と保護者にクレームがいったり、それを察して保護者が謝らなればならない雰囲気はない。

 大人の外出に子どもを同伴する機会が日本よりも多いように見えるなかで、もうひとつ、日本との違いで気がついたのが、言葉使い

 日本の場合、保護者以外の人が子どもに話しかける際、
「ぼく、何歳?どこいくの?」
といった具合に、子ども同士のような話し方になるのではないでしょうか。たとえその保護者とは敬語で話していたとしても、子どもと話す際には言葉使いが切り替わったりする。子どものほうも同じような話し方で応答することになり、結果、日本の子どもはあまり敬語を使いません。
 しかしタイの場合は、大人が初対面の子どもに挨拶するような時には、敬語を使うことが多いです。タイにも年功序列といいますか、年長者を敬うという価値観があります。なので、本来は、子どもに対して大人が敬語を使う必要はないのですが、まだ関係性ができていない子どもに対しては相手に合わせているのです。つまり、子どものほうが大人に対して敬語を使うべきなので、相手が使うべき言葉使いと同じ言葉使いで会話できるようにしているということ。
「何歳ですか?どこから来ましたか?」
と訊かれれば、自然に応答も敬語になるもの。
「子どもに合わせる」という意味では、タイも日本も発想は同じなのですが、結果、全く逆の対応に。

日本の小学生は敬語が使えない?

 タイの大学で、日本語の流暢なタイ人の先生と、タイに在住している日本人の一家が会話しているところに居合わせたことがあります。大人同士が日本語で会話しているところに、日本の子どもが加わってきました。大人同士の会話は敬語です。しかし、日本語学校に通っているというその小学生の子どもは敬語を使いません。タイ人の先生は子どもに対しても、その両親にしていたのと同じように敬語を使って応じますが、日本の子はくだけた口調のまま。傍で見ていてなんだかハラハラしてしまいました。
 
 考えてみれば、現代の日本の小学生は、友達と話す口調と、学校で教員に話す口調を使い分けるということをしてません。小学校までは誰に対してもくだけた口調なのが、中学校に入ると突然、「先輩」「後輩」という概念とともに厳格化され、教職員ばかりかひとつ学年が上の生徒に対しても敬語を使うことが徹底されていくような印象があります。

 日本の小学校の学習指導要領では、5、6年生の国語の「言語事項」に
 「日常よく使われる敬語の使い方に慣れること」
という項目があります。
つまり、敬語を習うのは、小学校高学年になってから
日本語の敬語は、尊敬語、謙譲語、丁寧語、美化語に分けられ(参考:文化庁「敬語の指針」)、かなり難解。なので、段階的に学ぶことになっているようです。
 1,2年生は 「丁寧な言葉と普通の言葉との違いに気を付けて話し,また,敬体で書かれた文章に慣れること」
 3,4年生は「 相手やその場の状況に応じて丁寧な言葉で話し,また,文章の敬体と常体との違いに注意しながら書くこと」
 という項目があります。

 日本の小学生以下の子どもたちは、目上の人、もしくは初対面など距離のある相手に対して敬語を使うということはしない、もしくはまだできないのです。

年上を敬う

 タイの子どもたちは、はやくから年上を敬うという姿勢を身に着けているように感じます。

 タイの伝統的な挨拶にワイ(合掌)がありますが、通常、ワイは目下の者から目上の人に行うのがマナー
日本の会釈とは少し違っていて、例えば店員さんに対してお客さんのほうから先にワイをしたり、教師が生徒に対してワイをするということはありません。ワイを返すということはもちろんしますし、大人が手本を示すということはありますが、目上の人から目下の人に対して先にワイをすることは通常はないものです。
 挨拶の作法にも相手との自分の上下関係が関わるくらいですから、タイでは人間関係を築く際には相手との距離感や上下を把握することが重要になります。
 子どもは多くの場面で最年少者、立場が一番下になるわけなので、自分からワイ=挨拶をします。複数人の大人の集まる場に子どもが連れてこられた場合、保護者に付き添われ、子どもは上位の人から順に挨拶をしてまわったりします。次第に子どもは自分で順番を判断し、挨拶をできるようになるのです。
 日本の感覚では、子どもが敬語で話したり、きちんとしたお辞儀で挨拶をしたりすると「大人びた」印象になりますが、タイでは敬語で話し、率先してワイ(合掌)をする様子こそ、子どもらしく、可愛らしい光景となります



 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?