見出し画像

タイのテーブルマナー事情

2014年4月 

「日本では麺類は音をたててすすって食べるのが正しいって本当?」

タイでは日本のラーメンチェーン店がたくさんの支店を出すなどしており、中国由来の小麦麺や、もともとタイにある卵麺のバミーと区別され、日本の「ラーメン」が知名度を得ています。
ラーメンの他にも、カレーライスやカツ丼、たこ焼きなど、さまざまな日本料理がタイで食べられています。
日本人駐在員が接待に使うような高級で本格的なレストランのほか、地元の人の味覚に合わせてアレンジされた屋台料理など多様な日本食がありますが、ここで気になるのがテーブルマナー。ある友人は、ラーメン屋で日本人がラーメンをすすって食べるのがどうも気になって仕方がないといっていました。


画像4

チェンマイの屋台で食べた「醤油ラーメン」
「カマボコを切らしていてごめんなさい」とのコメントつきでサーブされました

麺類をすすって食べるのは日本人だけ?

タイも日本と同様、箸を使う食文化があります。汁物を使った麺料理は、箸とレンゲを使って食べるので、日本とさほど変わらないように見えますが、タイでの作法では、麺をすすり上げることはありません。スープをすくったレンゲの上に箸を使って適量の麺と具をのせ、ひとさじずつ口に運びます。音をたてることも、汁がはねることもない食べ方をしているため、ラーメンをすする音やその見た目の豪快さにいささか驚く人もあるようです。
実はこれはタイに限ったことではなく、音を立ててすする日本流の食べ方が特殊なのだといえます。ミャンマーやベトナム、東南アジアの国々のほか、韓国や中国、東アジアでも麺類はタイと同じように音を立てずに食べられています。

逆に日本人が戸惑うのは、「タイ焼きそば」として知られるパッタイの食べ方です。パッタイは、米粉で作られた平たいビーフンを肉や野菜、卵などと炒めた料理なのですが、生のもやしやニラを添えて食べることが一般的です。そもそも我々日本人は生もやし、生ニラを食べつけていないというのもありますが、汁入りの麺料理と違い、パットタイの場合は箸ではなく、スプーンとフォークで食べることになっており、慣れないとこれに苦戦します。スパゲティのようにフォークに麺を巻きつけてしまいそうになりますが、スプーンを右手、フォークを左手に持ち、奥に構えたスプーンの上に、手前に構えたフォークの背を使って麺と具をのせて口に運ぶようにするのがお作法です。

これは、パットタイだけではなく、おかずかけご飯などのタイ料理全般の一般的な食べ方で、フォークはスプーンに食べ物をのせたり、スプーンで食べ物を切る際に食べ物をおさえるのに使い、直接食べ物を突き刺して口に運ぶ使い方はしません。

画像1

屋台のパッタイ。食べ歩き用は竹串や箸がつくこともあります。

画像5

おかずとご飯はスプーンとフォークが基本です

ほかにも、汁物はお椀に口をつけて飲まずにレンゲを使ってひとさじずつ飲む北部料理、東北料理のもち米は指先でつまんで丸めて食べる、串焼きの肉団子は袋の中で一旦串から全て外しひとつずつ串の先に刺して口に運ぶなどなど、タイ料理には日本とは異なる食べ方があります。見た目が日本の料理と似ているだけに、つい日本流の食べ方をしてしまいそうになります。

余程の良いお店で食事をするのでなければ、少しくらい変わった食べ方(日本流の食べ方)をしたところで、とがめられるようなことはないですし、おおらかなタイの人々がそのようなことで外国人を軽蔑するようなこともありません。
しかし、知らぬ間に一緒に食事をしている相手や、周囲の人をびっくりさせたり不快な思いをさせているかもしれませんし、なによりもよりタイ料理を楽しむために、タイ料理を味わう機会があれば、タイの人と同じ食べ方でいただきたいものです。タイ流の食べ方を身につけてみると、それがその料理の一番美味しい食べ方、合理的な食べ方であることがわかってきます。

画像3

手でつまんで、ナムプリックという唐辛子とにんにくをベースとしたディップをつけて食べる蒸し野菜

テーブルのうえに置かれるもの

また、タイのテーブルには食器の使い方のほかにも気になるものがあります。屋台などで多いのですが、トイレットペーパーが丸ごとゴロンと置かれており、芯を抜いた中心から引き出して手や口を拭うためのペーパーナプキンとして使うという場合があります。
プラスチック製のカバーがかけられていることもあるのですが、トイレで使うのと同じ製品がテーブルの上に置かれるという発想に一瞬ドキッとします。実際、そのお店のトイレに紙が備え付けられていない場合、テーブルの上からこのペーパーをちぎり取ってトイレに持っていくということもあるのです。
このようなテーブルの上の紙は、屋台などでは食事をする前にスプーンやフォークを拭うのに使われることもあります。スプーン、フォーク、箸は箱に入れてテーブルの上に常に置かれているスタイルも多く、埃等の汚れがついていそうなので、あらじめぬぐいたいというわけです。日本のお店でこれをやったら店主に失礼にあたらないかと思ってしまいますが、タイではむしろ食器のセルフ消毒用の熱湯を置くサービスを行っている店もあるほどです。フードコートなどで食器をとる場所の隣に、蓋を外した炊飯器や電気湯沸し器にお湯が張られたものが置かれていたら、それはフォークやスプーンの先端を潜らせて殺菌するためのもので、お茶を入れて飲むためのものではありませんのでご注意を。

画像6

タイ料理屋のテーブルの上に置かれる物でもうひとつ、調味料セットがよく知られています。ナンプラー、唐辛子、酢、砂糖の4つのツボがセットになっていて、各自好みの味付けを足して料理を楽しみます。麺類などは、自分好みの調味料のバランスが決まっている人もあり、スープの味をみることもなく、料理が運ばれてくるとすぐに調味料に手を伸ばすという人も少なくありません。

画像7

日本国内のタイ料理屋さんのコースター。調味料の説明が書かれていました。


日本でラーメンを食べる際に音をたててすするべきか否かを悩んでいる友人には、わたしはむしろ調味料のほうを気をつけて欲しいと伝えました。
日本のお店ではそのお店なりの絶妙なバランスで味付けがされた状態でラーメンが出されるので、特にカウンター越しに調理人が見えるお店では、出来る限りそのままの味で食べたほうが、店側には喜ばれるということを。また日本のラーメン屋のテーブルに置いてある調味料はせいぜいコショウくらいなので、お酢、砂糖、唐辛子がないか訊ねたりするのは失礼にあたる場合もあるということを、一応知っておいてほしいと思ったのです。
納得したのかしていないのか、友人は「もしもの時のために」日本旅行中はこっそりマイ調味料を持っていくと準備していました。

そういえば、ベジタリアンの知人はタイ国内の旅行や遠出の際にも、お手製ナムプリック(唐辛子、にんにく、玉ねぎなどをすりつぶしてで作ったディップ)を持ち歩いていました。万一出先で食べられるおかずが見つからなくても、これさえあれば美味しくご飯をいただけるそうです。

タイではほかの店で買った食品や飲み物、調味料の持ち込みも、一般的には自由です。

画像8

丸ごとフライしてスナック菓子となった唐辛子。タイ土産としても人気だとか。

画像5

串刺しになったタイアレンジのたこ焼き。屋台料理として、カニカマの寿司やチョコクリームの鯛焼きなども見かけます。


※この記事は日・タイ経済協力協会より2014年4月に発行された『日・タイ パートナーシップ』に掲載された記事を一部加筆修正したものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?