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『雑魚どもよ、大志を抱け!』足立紳~昭和の悪ガキたちの懐かしき日々~

※画像(C)2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

今やNHK朝ドラの『ブギウギ』で有名脚本家の仲間入りを果たしたと思われる足立紳。かつて『百円の恋』(2014年)の脚本で認められ、『喜劇 愛妻物語』(監督・原作・脚本:足立紳/2019年)も自伝的な作品で、そのダメ男ぶりが自虐的に笑える面白い映画だった。そしてこれも自らの思春期を投影した小説「弱虫日記」を映画化。有名な役者がそんなに出ていなくても、少年たちの躍動や身体的な運動だけで見事な青春映画になっている。相米慎二の『ションベンライダー』などの少年少女たちの運動性のある映画を思い出す。

オープニングは自転車をうまく使いながら、友達を一人一人を誘って、連れだって悪戯を繰り広げる悪ガキぶりを手持ち移動カメラでテンポよく活写する。猫やサンショウウオなども使いながら、イタズラのやりたい放題だ。 時代は1988年3月 。地方都市のちょっと懐かしい風景が広がる。学校帰りの少女たちの縦笛の合奏も懐かしい。そして、ぞれぞれのキャラクター付け。父がヤクザだというケンカの強い隆造(田代輝)、母が新興宗教にハマっているトカゲ (白石葵一) は、皮膚に湿疹があって痒がって、みんなからイジメられている 。東大を目指すほど勉強は出来るが、ゲームばかりやってる 正太郎(松藤史恩)、そして勉強を頑張るために塾に行くことを母親(臼田あさ美)に強制される主人公の瞬(池川侑希弥)。小学校5年生の設定で始まる。池川侑希弥は、関西ジャニーズJr.「Boys be」のメンバーだそうだ。父親を 浜野謙太が演じている。隆造の母親役で河井青葉。

6年の新学期になると、いじめっ子のアキラ(蒼井旬)グループの標的にされるトカゲを、瞬は守ってやることが出来ない。塾で一緒になった映画好きの西野(岩田奏)と瞬は意気投合し、一緒に映画作りする夢を思い描く。しかし、西野がアキラにカツアゲされる場面を見ても何も出来ない。強い奴にかなわない不甲斐なさ、仲間を見捨てることしかできない勇気の無さ、自分のズルさ、そんな瞬のジレンマが描かれていく。そして、転校してきた小林(坂元愛登)がエアガンを持って親友の隆造にすり寄っていく。次第に距離が出来る隆造との仲。そんなとき、隆造はヤクザな父親(永瀬正敏)との暴力事件が起きる。父親を本気で殺しそうになる隆造。普通の家庭であることがコンプレックスな瞬と普通になりたい隆造。それぞれの少年たちの闇と葛藤が描かれる。川で瞬がヤクザな永瀬正敏と釣りをするシーンもいい。浜野健太のようなダメな父親もいれば、何を考えているのか分からない不気味な永瀬正敏のような大人もいる。

地獄の入り口と言われる廃墟になった心霊スポット「地獄トンネル」を走り抜ける瞬、ラストの列車でこの地を去っていく隆造との見送りシーンがグッとくる。自転車、走ること、列車。子供たちの視線や距離感、さらに大人との関係。懐かしい昭和な感じと、その頃の子供たちが見事に生き生きと描かれているのが気持ちがいい。


2023年製作/145分/PG12/日本
配給:東映ビデオ

監督・原作:足立紳
脚本:松本稔、足立紳
撮影:猪本雅三、新里勝也
照明:山本浩資
録音:臼井勝
美術:高橋俊秋
編集:堀善介
音楽:海田庄吾
主題歌:インナージャーニー
キャスト:池川侑希弥、田代輝、白石葵一、松藤史恩、岩田奏、蒼井旬、坂元愛登、臼田あさ美、浜野謙太、新津ちせ、河井青葉、永瀬正敏

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