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『独裁者たちのとき』~権力者たちの戯言と亡霊の悪夢

なんという映画だろう。こんな映画が成立するのか!?という驚きしかない。アレクサンドラ・ソクーロフは、これまでも戦争や権力者たちにこだわった映画を作ってきた。今まで私が観たのは、『チェチェンへ アレクサンドラの旅』(2007年)、昭和天皇をイッセー尾形が演じた『太陽』(2005年)、『ファウスト』(2011年)、そのほか『ボヴァリー夫人』(2009年)という奇妙な映画もあった。とにかく一筋縄ではいかない映画監督だ。有名な『エルミタージュ幻想』は未見だが、『モレク神』(1999年)ではアドルフ・ヒットラーを、『牡牛座 レーニンの肖像』(2001年)というレーニンの映画も撮っているようだ。

さてこの映画は、スターリンもヒットラーもムッソリーニもチャーチルも、すべて実際のアーカイブ映像を素材として使っている。さらに台詞も声優には言わせているが、全て実際の発言や手記を引用しているということだ。実在の映像を使っての合成とモンタージュだ。

煉獄のような一室でスターリンが起き上がる。「自分はまだ死んでいない」と呟く。となりにはキリストが身体の痛みを訴えている。「早く神のもとへ行け」とスターリンはキリストに言うが、キリストは「皆と同じように列に並んで審判を待つ」と答える。笑ってしまうではないか。神殿のような建造物に第二次世界大戦で世界を牛耳った男たちの映像が合成される。天国への扉が開くのを待っているのか?亡霊たちが煉獄のような場所で会話のならない会話を続けてウロウロする。これはコメディか、パロディか、茶番か、悪夢か。ロシアによるウクライナ侵攻が起きた現代において、戦争は過去のものではない。過去の亡霊がまたまたウロウロと現代を彷徨っているのだ。

後半、群衆の声が大きく沸き起こり、壮大な音楽が流れ、ステージのよう場所に権力者たちが現れる。群衆たちの歪んだ顔。この映画の奇怪さは、笑えるところもあるが、おぞましいところもある。やや眠くなったところもあるが、こんな映画を作ってしまったアレクサンドラ・ソクーロフには、是非現代のプーチンを描いて欲しい。

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