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私のお気に入りの美術館

私が参加させていただいているメンバーシップ「オトナの美術研究会」
投稿企画「月イチお題note」。4月のお題は「#お気に入りの美術館」です。

ドイツで最も家賃の高い町ミュンヘン。
特に週末は狭いアパートに親子3人でいると、息が詰まりそうになります。
そんな時、たまった書類を読みたい時、静かに考え事をしたい時、自分の居場所が欲しい時、ただ単に独りになりたい時、に行くのが1836年に開設されたアルテ・ピナコテーク(旧絵画館)です。

特別企画展の時はチケットカウンターやロッカールーム周辺は勿論、館外まで長い行列が出来ます。そんな時でも私がまず向かう先はミュージアムショップ。企画展、常設展のカタログの他に、時代ごと、地域ごと、テーマごとの最新の文献が並んでいます。ポストカードやグッズ、見るだけでもわくわくしますね。

私がどこで読み物をしたり書き物をしたりしているかと言えば、そう、ショップの前に設置されている深々としたソファーや、大階段のベンチなのです。実はショップや大階段には、チケットが無くても入れるのです。展示室に入るときにチケットの提示を求められますが、展示を見なければ、チケットなしで滞在できるのです。
何度となくそんな日曜日を過ごして救われたことでしょう。
 

イースター休暇が始まった先日も、カウンター前と入口ホールは大勢の人でごった返していました。私はしばらくベンチで書き物をしてひと段落ついたころにチケットを購入して展示室に向かいました。
 
ピナコテークと名がつく3つの美術館の内、ノイエ・ピナコテーク(新絵画館)は2029年にリニューアルオープンの予定で2019年1月から改装工事中により閉館しています。なんと、10年間!
そのため、ゴッホの ≪ひまわり≫ や、モネの ≪睡蓮≫ を含む収蔵品の一部がアルテ・ピナコテークに間借りして展示されています。

大きな展示室のほか、館の正面(北側)側には、窓列に沿って伸びる廊下を小さく区切ったキャビネットと呼ばれる展示室があります。

カール・シューフ ≪アスパラガスのある静物画≫ 1885/90頃 

ここにはカール・シューフの静物画数点があるのですが、上部からの照明と窓側からの明かりで作品に光が反射してとても鑑賞しづらいものになっています。

キャビネット

では、気を取り直して上階に参りましょう。

去年から展示のコンセプトが変わって、約200点の作品が移動しています。
いままで年代と地域よって展示経路が形成されていましたが、現在は様式や時代の区別をえて、作品の主題という観点から見た構成になっています。
作品一点を見るだけでなく、隣に掛けられた作品と比較対照して鑑賞することで、新しい発見を促しているようです。
 

ややギュウギュウ詰めな感じも…

ここまで来れば、あの作品にもご対面です。

では、ここで私のお気に入りの一点をご紹介しましょう。

フランドルの画家、ヤン・ホッサールト(別名マブーゼ)作 

≪ダナエ≫ 1527年

ギリシャ神話に登場するアルゴス王アクリシオスの美貌の娘ダナエ。その娘が生むであろう息子によって殺される、とお告げを受けて、アクリシオスは一人娘を青銅の塔に閉じ込めますが、ゼウスが黄金の雨に姿に変えてダナエと交わり懐妊。生まれたのがペルセウスです。
ダナエを主題とした作品の多くは、豊かな肉体を惜しみなく豪華な寝具の上になげうち、ほとばしる黄金の雨や金貨を一心に受け止めようとしている姿で描かれています。一方マブーゼのダナエはまだあどけない少女の面影を見せ、これから自分の身に何が起ころうとしているのか、はっきりとは分からないながらも、何か運命的なものを感じそれを受け入れているように見受けられます。
全裸ではなく青いマントの着衣姿なのは、かつてダナエの懐妊が聖母マリアの処女受胎に繋がると解釈された時代があり、マブーゼはそのパターンを踏襲したのですね。