『青春』

16歳のとき、恋をした。

当時、溜まり場にしていたファミレスで出会ったその子は同い年だった。
友達の彼女だった人だった。
気は強いが何処か寂し気な雰囲気を漂わせた人だった。きっと水商売であろう特有の大人びた化粧と落ち着いた物腰があいまって僕は一瞬で恋に落ちた。彼女をどうしても振り向かせたいと思った。
しかし、まだ2人は別れて二ヶ月くらいで互いに連絡は取り合わないが周りの友人を通じて互いのことを気にしている様だった。
今思うと、あれは2人が元の鞘に収まるかどうかという胸の内を互いに外壁から探っている様にも見えた。

10代の恋愛って恐ろしいほどに周りが介入してくる。ましてや16歳、友達の恋愛なんてお前らヒュー!ヒュー!ものである。妙な野次馬根性を出したお節介焼きの恋のキューピッドなんて頼んでもいないのに現れる、そして一方的に盛り上がった連中は自分達のアドバイスに責任なんて取らない、そんな時代だ。それでいて大抵そういう連中ってハッピーエンドを求めている。TVドラマを見てるみたいでなんだか楽しいから。それで、なんとなく渦中の2人もその空気を察してなんとなくそっち方向に物語は流れて行くんだと思う。

とりあえず、彼女には僕なんか一ミリも視界に入ってなかったと思う。彼女からすれば僕は元彼と仲の良い友達、あわよくば僕を使って彼の情報を少しでも多く取り入れたい、魂胆はミエミエだった。僕は簡単にその誘いに乗った。だから真夜中に互いに家を抜け出し2人で会うと決まって元彼の話、僕はそれでも彼女といれる少しの時間がたまらなく愛おしかった。16歳の夏、2人だけの声が静かに響く公園、ジメッとした空気、流れる汗も蚊に噛まれた足も放ったらかしにして彼女の話を聞くのに夢中だった。今、考えるとどうにかしてた。うわー痛いなぁ〜と頭では分かってた。けれど、そんなイビツな形の恋を僕はどうしても忘れられなくて今に至る。

と、話はここで終わらない。

どうしても彼女を振り向かせたい。好きになって欲しい。その想いが膨れるあまり、何が出来るか考えた末に僕はある計画を実行に移すことにした。それは喧嘩で強くなることだった。それは毎晩、毎晩、見ず知らずの他人と喧嘩をすることで、肉体的な力強さを誇示することで自分を他人を傷つけることで、そしてその行為を彼女に抑制して貰うことで、彼女と繋がりを保とうというものだった。
それはまるで片道のエンジンだけしか積んでいないヤバい旧式の戦闘機、まるで旧日本軍の特攻の発想だ。彼女に振り向いて貰う為の手段を選ばなくなった僕の行為はどんどんエスカレートしていった。僕はどんどんどんどんボロボロになっていった。僕は間違いだらけだった。僕はただの頭の悪い16歳の少年Aだった。そうして僕は彼女といれる少しの時間を救いとして求めていた、この時間がたまらなく愛おしかった。この時間だけはどんな事をしても守らなくてはと真剣に悩んでいた。

真夜中のベンチで不機嫌な様子で説教を口にする彼女がパチンと叩き落とした蚊が僕の足元でグチャグチャになって潰れて落ちた。あ、この蚊はなんだか僕みたいだなと思った。

瞬間。出口の無いトンネルの様に思えたこの苦しみからの脱出法を僕は閃いてしまっていた。

#ショートショート #青春 #非行少年 #恋心

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