弔うが為

近くに又、染めるかもしれない。
2,3ヶ月に一度ぐらいの割合で、わたしは髪を染めている。が、その意味合いで染めるのは、実に3年振りぐらいである。
今年は亡父の、七回忌なのだ。

入・退院を繰り返す事、約1年。
亡父の葬儀が終わるまで、髪を染めている余裕など全くなかった。片道2時間、往復4時間。元々、白髪は多い方だったが、父の入院先の病院と自宅の往復生活で、一挙に倍増。白髪体質(?)となっていた。
ひょいと1本、抜いてみる。半分以上は銀髪だ。銀の白髪が混じっている。
(何とかしなきゃ)
思いはするが、どうにもならない。兎にも角にも「今日も病院、明日もそれ」。急な呼び出しも少なくなく、自分に構うなど最低限。髪の毛に迄、手が廻らない。
父が他界すると、今度は伴う諸々だ。あれよあれよと時間が過ぎる。妹一家の存在が大きかったが、どうにか終了。
一連を了(お)え、帰宅。ふと見た姿見にビックリした。
(ゲッ!ゲゲッ!)
どんよりした砂掛け婆。やつれた若い(?)砂掛け婆みたいのが、ありのままに映る。(誰?)わたしだ。
髪の毛は、元祖を完全に超えた。
天然パーマのクルンクルン、半分以上が銀髪だらけ。しかも、綺麗に巻き上がったウェーブ・ヘアでは全くなく、何かガチャガチャ、フニャフニャの巻き。
(早く人間になりたい!)某アニメのキメ台詞に擬え(?)
(早く染めたい!四拾九日迄、どうにかしたい!)
固く心に決意した。

馴染みの店へと行ったのが数日後。ドラッグストアだ。
不器用なわたしを、何とかしてくれるメーカー「hoyu(ホーユー)」。黄色いパッケージが目印のシリーズ商品棚へ。お気に入りである。
「hoyu(ホーユー)」。
(「オン・リー・ユー(あなただけ)」なんて歌がグループサウンズにあったけど、「ホーユー(あなたの為に)」。良い名じゃん!意識でもした??対抗心を燃やして見た?ニクイねこのぉ~っ、ど根性ガエル!)
この企業名に思う。最も「フォー・ユー」が正しかろうけど、「ホーユー」が日本人には良かろう。言い易いし、憶えやすい。

様々な色がある。新色も出ている。
(ン~っ、そうねぇ)いつものにしようか、な?
こういう時に、冒険出来ない。「スタイリッシュブラウン」か、「キャラメルブラウン」。2つの内の、どちらかでしか、わたしは選ばない。使用経験がない、似合わないかも知れないが理由であるが、我ながらチャレンジ精神に乏しい。
(定番でいいやね、定番で)安売りしてなかったっけ?
と、(ん?)。
桜色系のが眼に入る。視界に止まる。手に取った。箱に書かれた紹介文をざっと読む。ピンク、ピンクした桜ではなく、チョイとばかりに影のある色。少し黒みを帯びるらしい。
<山形><東北><春><遅い>同時に浮かんだ単語である。4つがわっと、押し寄せた。
我が家の菩薩寺は、山形県にある。東北。春が遅い。
四拾九日を弔うのは、三月とした。正しい弔い日だと、東北ではまだまだ寒い。三月にもなれば寒さからは、一応、解放もされよう。けど、桜。関東ではそろそろ咲き始める季節の花も、山形県では遠い。せめてわたしが選んだ染めた色。頭の色で感じて貰えればと閃いた。
すっと買い物カートに入れる。遠い記憶で憶えていないが、残念ながら安売りはしていなかったようだ。

肝心の日には気づいて貰えなかったけど、「似合うじゃん、意外と。若くなった」。言われて以来、気を良くしたわたしは、一回忌の時も、三回忌の時もこの色。少し濃い黒が混じる渋いピンク、もとい桃色で染めた頭で参加した。
そして、七回忌。今年も又、同じ染粉を使う。

〇東北の 弥生弔う頭髪は 
      渋き桃色 桜(はな)よ山形(ここに)と

                   <短歌 なかむら>


#髪を染めた日


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