この作品も生きている~「フィルムは生きている」(手塚治虫著/小学館刊)


「フィルム ハズ ザ ライフ」(英文表記)
何てモダンなんだろう。モダンなセンスを持った、作者であろう。
「フィルムは生きている」
難しくない、短編だ。
昭和33頃に、漫画雑誌の別冊付録として描かれた。
良くあるライバル物語。貧しい少年・武蔵と、裕福な所のボンボン・小次郎が、漫画映画をめぐって対立する。ひょんな事で知り合い、「一緒にやろう」。初めは良くても、段々良くない。意見が合わずに仲間割れ、各々、1人でやる事に、、、。

作品としてあるのは、知っていた。
けれど接する機会が全くなく、幻に終わらんとしていた。
んが、ある日、ある時。某書店で漫画文庫の棚を覗いてみたら、ひょっこり目の前にあった。秋田書店の秋田文庫かと思ったら、小学館のそれである。
(文庫になって出廻っていたのね、お姉さんは嬉しいわ)
ニンマリしつつ、早速買う。

「アオの物語」
主人公・宮本武蔵は、故郷の愛馬・アオを主人公とした物語を考え、
漫画映画にしようとする。しかし莫大な資金が必要になるし、色々と物入りだ。
ふとした弾みからカタギの娘、お通さんが男の子のなりをして(何だかリボンの騎士っぽいが)、半ば押し掛け弟(?)となり、協力してくれるにはいいけれど、意地悪な彼女の祖母にバレ……と。
後は買って読んで下さい。

「才能」
このような短編、一寸したスケッチ、小説で言えば掌にも満たないような作品にすら、手塚は独自の才能を魅せる。作中で大抵、当時のライバルや心境が自ず現れている。
「~生きてる」の場合は、横山隆一。
常に敵視し、ライバルだと意識していた福井英一が自殺してしまってから数年後、この作品前後の手塚は、横山隆一を意識していたのではあるまいか?


「横河(「川」だったかな?)プロダクション」のネーミングは、「横山」の「山」をひっくり返しただけであるし、同社の作品として壁に広告が貼られている「ひょうたん何とか」も、同じ頃に横山が発表した「ひょうたんすずめ」と似通う。

ファンタジー。
純日本語に訳せば「情緒的」となる作品を、この頃から横山は発表する。
「おんぶおばけ」が代表作といえるだろう。
「フクちゃん」
子供時代に接した漫画家。言葉は悪いが、4コマ漫画だけしか描けなかっただけの漫画家が、今や情緒の分野に挑もうとしている。これから必要となるであろう分野に挑戦している。

「俺は抜かれる」「今に抜かれる」
誰にも分からなかった心情。
一歩、間違えれば危ない世界に完全に浸りきってしまう心が手塚にはあったが、「だったら登場させてやる」。
筆に自然と表現されていったのではなかろうか?
途中で、スクリーンに映し出された未来の漫画世界(スタジオ)が出てくるが、昭和33年前後、こんな発想はあるまい。

「フィルム ハズ ザ ライフ」
「フィルムは生きている」
併用作品はない。題名だけの、単独作品。
深く、楽しく、素晴らしい。手塚治虫の根本だ。
                      <了>
                     

#創作大賞2023

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