お箸と蓮華<掌小説>

今日のランチは、トンカツだ。
久々のデートで、まず食べ物屋さんへいうのが、わたし達らしい。「腹が減っては」戦(いくさ)どころか、何にも出来ぬ。
落ち着いた雰囲気で、つけ合わせのキャベツとご飯、味噌汁がお代わり自由。「彦家」という店だ。

運ばれて来たヒレカツを、実に上手に箸を使って彼は食べる。
持ち方が美しい。わたしも同じものを食べているが、箸の持ち方が正しくない。故か箸使いもギコチない。どうも無理がある。
「ん?」彼が気づいた。視線を皿からわたしに移す。
「その、ちゃんとしてるなって思って。箸の持ち方」
「そぉ?自己流なんだけど。環境が余りなかったじゃん、俺ら」
「そうね」不器用な箸使いで、わたしも言う。

共に実家がパン屋で、末っ子。
適当に放任さてれ育ったせいか、箸をちゃんと持つべく年齢に、習っていない。双方の親は当時、超多忙に忙しく、食事もパン食が多かった。
幼稚園ぐらいの時に一応、習いはしたけど、私は出来なかった。
「あ~っ、しょーがないねぇ。この子は。蓮華にしなさい、蓮華に」
以後、家庭での食事には、わたしだけ蓮華。時々ゆく外食先では、親が求めてくれたり、自分で頼んだりした。
学校給食は、先割れスプーン世代であるから、問題はない。
蓮華と共にが、食生活。
聞いた記憶では、彼も大差はなかった。 

「だけど<お箸の国の人>じゃん、日本人って」
「そうね」
しじみの味噌汁のお代わりを楽しんだ後は、デザートである。あんみつへと移行する。
彼は単なるあんみつだが、わたしはスペシャル。あんこもアイスも2山(ふたやま)だ。
「だから、ちゃんとした持ち方がいい かと。箸に初まり、箸に終わるだろ」
満足そうにあんこを口に入れながら、言う。
「うん」
お喰い初めと納骨に共通するのが、箸だ。
「職場の人に聞いたり、本で確かめたりしたんだ。正しいと思う。それに、、、今度」食べるのを止め、真剣な表情になった。
わたしも真面目に、相手(彼)を見る。察する。自然、顔が赤らむ。
通り掛かった店員さんが、機転を利かせ
「お茶、お持ちしましょうか?」
「お願いします」
「わたしも」釣られ頼んだ。

一服した彼と同時に、わたしも同く飲んだ。
「結婚したら、俺が教える事になる。気にしてるだろ、箸の持ち方」
「知ってたの?」一度も言った事などない。
「何となく。良く持ち替えたりしているから、今日も3回、やっていた」
笑いながら、試しに言う。
「完全無欠に、マスターしないとダメかしら?お箸の持ち方。蓮華は御役目ご免としちゃう訳?この年迄わたし、蓮華の良さを知っているんですけど」
「そうかぁ。蓮華の良さもあるよなぁ。だったら」
笑いながら、彼が提案して来た。
「無理のない範囲で、序々に正しい持ち方をして貰う、って言う事で。結果的に半々から、7・3(ななさん)を目指しますかね」
「そうしましょ」 
周囲に聞こえていたらしい。
そそくさと店主が来た。にこにこしている。
「おめでとうございます。お店からお祝いに、もう一品。何かサービスして差し上げたいと思いますが、如何ですか?」
「勿論!」
「是非とも!」
同時に、わたし達は肯定した。

<了>    




    

 

#創作大賞2023


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