狂人の報復

男は白い夢から覚めぬまま私の顔を見た。
平たく叩き潰された蟹の死骸のような臭いを漂わせながら、息を吸っていた。黒く日に焼けた腕を上に向けて何かを撫でた。白痴の見るものは得体が知れない。
彼は笑ってしまった。そのために白痴となった。
彼は名のある政治家であった。彼の父も、祖父も政治家であった。その家に生まれたものとして余程の教育を受けていた。しかし、道に映る狂人の一行を見、思わず、鼻を鳴らして

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書き出しだけ選手権

この街はどこまで続いてると思う?
そう言って君はチャックを下げた。

うーん、35点。

影響を受けた人物は?
片思いの彼です。

5点

良い味でてるねー
聞いたことのあるモノマネの真似をしながらする彼のクンニがいつのまにか上手になっている

結構好き。68点

空き缶を蹴ったが、夢だった。

あ、これも好きかも。62点

好きな言葉を並べても、君はいない。

考えてないように見

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ほこりと髪の毛となにかのかけら

認めると君が好きだった。

君は変わらないその笑顔を、今は僕ではない別の誰かへ向けている。

僕は君のいた場所をただ埋める作業でいっぱいいっぱいでそれ以外のことはおざなりに済ましている。薄目で君の面影を追いかけている。

気づけば梅雨は終わり台風が来ると好きだったお天気お姉さんが言っている。

風も雨もこの街を強く打ち付けるだろう。電車は止まるのかな。

君がいないこの部屋にはいらないものばかり

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日曜日の朝のゆで卵(140字小説*17)

日曜日の朝、目を覚ました私は、缶ビールを飲みながら、ゆで卵を十個茹でているところだ。ゆで卵は二つは私、残りはチンパンジーの悟の分である。悟はゆで卵が大好きで、食べているとき、とても幸せそうな笑顔を見せる。最近は殻を割るのは悟の役目だ。卵はもうすぐ茹であがる。世界はもうすぐ終わる。

#140字小説 #掌小説 #超短編小説 #ビール #ゆで卵 #チンパンジー #世界の終わり

叔母の猫

こたつで寝ていると、棒のようなもので、急につつかれて起こされた。

デッキブラシの端だった。

みると、中年の女がそこに立っていた。
わたしの伯母だった。

——なにすんだ、てめえ。

起き上がると、わたしは伯母に食ってかかった。
伯母はおどろいて、何かもごもごと言い訳を口にしたようだが、不明瞭で言葉が聴き取れないし、わたしにも聴き取る気はない。

——くそばばあ。きちんとあやまりやがれ。

伯母

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【掌編小説】物語ができる頃には

「あー書けない」
さっきから同じポーズで何時間固まっていたのかわからない。私は6畳ほどの狭い部室の片隅で、ノートパソコンと終わることのないにらめっこを続けていた。まだ7月上旬だというのにとても暑い。部室にはクーラーがなく、扇風機が音を立てながら首を振っている。喉が乾いて紙コップの中のアイスコーヒーばかりが減っていく。
「もう80円投資か……」
そう思った矢先、ドアのノック音が聞こえた。

「はーい

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あの夏、あの風、あのビール

あの夏、わたしは恋をしていた

「お盆はさ、どこか涼しいところに行こうか」

そんなことを言われたもんだから、就活もバイトもすべて投げ出した。
恋人と泊まりがけでどこかに出かけるなんて初めてで、どきどき。

親には、大学の友だちとって嘘をついた。

家の近くまで迎えにきてくれるって。
見つからないようにそそくさと、静かに玄関を出る。

早朝の住宅街は静かだ。
その中に、見慣れた車をみつける。

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夜のマンションの一室

夜、誰かのマンションの一室に、ひとりでいる。

部屋の灯りは消えているが、ベランダのガラス戸が全開しており、外光が入ってうっすらと室内を照らしている。

部屋の左手の壁には本棚、窓際には机と椅子がある。

机には電気スタンドがあるが、灯りは消えている。
何かのテキストブックのページが開かれたまま卓上に置かれている。
その横には筆記用具とノートがあり、奧には円い時計。
時計の針は、午後八時すぎを差し

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やす宿のオッサン

人なつっこいオッサンだった。渥美清に似ている。

どの部屋からやってきたのか。もうすでに酒が入っているようだ。
ネクタイはやや曲がって、ワイシャツも着古したようすである。
しかし薄汚いというよりも、本人が愉しくてしかたないという雰囲気があり、好感があった。

「もうし、シャチョウ。ぜひともワタシメのサカズキを、受けてくださいな」

とお膳の前ににじり寄り、お猪口を差し出すのである。

こいつ上手い

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日常:待合イス

流れ弾には要注意、か。

 足首の爆弾を抱えている。元々は持病からの影響で悪くなったのだ。それが時折爆発して、痛みだす。
 足首の捻挫は小学校からの付き合いで、その時も行きつけの接骨院に駆け込んだ。一ヶ月ほど通っただろうか、歩けはするものの、小さな痛みがいつまでも残った。

 さすがにおかしいので、総合病院の整形外科でレントゲンをとってもらって、診てもらった。
 医者からは『これ以上、悪くはなって

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