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【投資戦略】京成電鉄(9009)- 物言う株主の”理屈”は機能するのか?

英国のパリサー・キャピタル(物言う株主)が、京成電鉄(9009)に対して「保有するオリエンタルランド(OLC)株の一部を売却し、保有比率を15%未満にしろ!(保有比率は、もともと22.15%)」と揺さぶりをかけています。

驚くことに、1%だけですが、京成電鉄がOLC株を売却しました! 伝統的な日本企業のコーポレート・ガバナンスが少しずつですが変わりつつあるようにも見えます。

そんなことで、今年は「物言う株主」の”活躍”が一段と活発になりそうな感じもありますので、①この件は、そもそもどんな提案だったのか?、②儲かったのか?、③これから京成電鉄の株価はどうなりそうか? について考えてみたいと思います。


経緯について

簡単に、本件を時系列で振り返ってみます。

そもそも論として、パリサー・キャピタルが京成電鉄に投資を開始したのは2022年2月以前のようです。パリサー・キャピタルは、京成電鉄への提案を公表することなく、京成電鉄と相対で何度も話し合いを行っていたようです。

パリサー・キャピタルの提案資料より抜粋

それが、昨年の秋から急展開します。

2023年10月17日
 - パリサー・キャピタルが提案を公表(提案内容については後述します)。

この提案の公表を受けて、京成電鉄の株価は上昇軌道を辿ります。株式市場全体が上昇基調だったこともあり、京成電鉄の株価は一時7,676円(2/6 日中高値)まで値上り - 10/17の終値からの上昇率は、50.4%です。

京成電鉄(9009)の過去1年間の株価チャート

2024年3月8日(8:15)- 京成電鉄が、保有するOLC株22.15%のうち、1%分を売却することを発表。

売却規模は800億円を超える金額。そして、この売却により今期の当期利益予想を378億円 → 839億円に上方修正。加えて、期末配当を13円 → 21円に引き上げ。

しかし、提案が「7.15%超の売却」だったのに対して、回答が「1%のみ売却」と小規模だったこと、材料出尽くし感が広がったことから、京成電鉄の株価は大きく下落しました。

2024年4月1日 - パリサー・キャピタルは引き続き「OLC株の保有を15%未満にする」という提案を継続していることと、それについて京成電鉄の定時株主総会(6月下旬予定)に議案として提出するよう京成電鉄に求めていることを公表。

その発表により、京成電鉄の株価は多少、リバウンドすることはありましたが、以前のような勢いはありません - 「”1%の売却”で決着しそうだ」という空気感なのかもしれません。

パリサー・キャピタルによる「提案の公表」以降、約半年の期間です。その期間に株価は最大50%上昇し、現在(10/17の公表時よりも)23%高い位置にいるということになります - 10/17の終値は5,104円、4/8の終値が6,279円。

提案の内容 - パリサー・キャピタルの”理屈”

パリサー・キャピタルは、京成電鉄の保有するOLC株が(ビジネスにおける関係性がほとんどないにもかかわらず)「持分法適用会社」となっていることで、その「時価」がB/S、P/Lに十分に反映されていない。そのため、京成電鉄の株価は「実際の価値(=OLC株を時価評価した時の価値)」よりもかなり小さくなってしまっている。なので、OLC株の保有を15%未満まで引き下げて、「その他投資有価証券」として時価評価できるようにするべき。それにより、京成電鉄の株価は大きく上昇するはず! というものです - その他、資本配分の見直し、コーポレート・ガバナンスの強化なども主張していますが、本件の肝はやはり「OLC株の売却」です。

こちらが、そのパリサー・キャピタルの意見です。

パリサー・キャピタルのプレゼン資料より抜粋

10/17時点のOLCの時価総額は、8.58兆円。京成電鉄はその22.15%を保有していましたので、その保有分は1.9兆円です。

その1.9兆円に、キャピタル・ゲインにかかる法人税を考慮すると(=差っ引くと)1.23兆円になります。

そこに、京成電鉄の本業である鉄道事業などの事業価値3,200億円(=パリサー・キャピタルが試算)を加えると、京成電鉄のフェア・バリュー(適正な企業価値)は1.55兆円になるというものです - 株価にすると、8,990円。

それが、(10/17現在)京成電鉄の時価総額は8,800億円(株価5,104円)なので、「株価は、非常に割安になってしまっている」という主張です。

OLC株の保有比率を減少させ、その含み益を顕在化させることで、株価は76.1%の上昇余地がある(8,800億円 → 1.55兆円、5,104円 → 8,990円)という主張です。

”理屈”的には綺麗だと思います。

ただ、回りくどいですね。言いたいことは、シンプルに「OLC株を売れ!」ということだろうと。

22.15% → 15.00%になるように「7.15% 売却する」だけで、約6,000億円のキャッシュが生まれます。京成電鉄の時価総額は8,800億円ですので、68%のキャッシュ創出です。

株価へのインパクトは絶大だと思います。

ちょっと教科書的な意見になりますが(それでも、こちらの考え方の方が王道だと思います)、B/Sに1.9兆円の資産を保有しており、それがまったく活用されていない。「ただ、B/S上にあるだけ」という状態では、株主に突っ込まれてもしょうがないかなと思います。

その1.9兆円を使って、もっと儲かるように知恵を絞ったり、行動をしたりするのが(株主から委託を受けた)経営陣の責任だろうと思います(経営陣には大きな責任が乗っかっていますね。だから”偉い”し、”給料が高い”のだろうと思います)。

「物言う株主」のやり方には賛否両論あると思います。

ただ、こうした壮大な”戦い”を演出することで、(見逃がされていた企業に)多くの関心が集まり、それが期待となり、実際に株式が買われていくという結果になっています。

結局のところ、「物言う株主」は企業価値を高める(と思われる)”理屈”を探し出すことと、それを土台にした”派手な戦い”を演出するプロで、そうした演出によってリターンをあげていく投資手法なのだろうと(個人的には)考えています。

それでも、それぞれの「物言う株主」によって”理屈”の完成度、実行プロセスの精度、Exit先(売却の出口)の確保などに差があるように思います。そして、それらの違いが「パフォーマンスの違い」になっているような。

(物言う株主の投資手法には、好き嫌いがあると思いますが)成果を出している投資手法でもあるので、(言葉は悪いですが)「投資チャンスとしてうまく利用する」のがいいように(個人的には)思っています。

で、儲かったのか?

パリサー・キャピタルの「儲け」は、まだ不十分だと思います。

特に、一連の投資を通じて「信頼」を勝ち取るまでには至っていないと思います。なので、(前述したように)粘り強く会社側と交渉を継続し、株価の上昇を狙っていくのではないか、と。

これは、あくまでも(上記の時系列をベースにした)個人的な推測ですが、パリサー・キャピタルのコストは一株あたり3,500円くらいではないかと思います(保有比率1.6%ですので、投資総額は約100億円)。

4/8の終値が6,279円ですので(合計173.2億円)、約73%の利益となっています。そして、それに費やした時間は約2年。

金額的なリターンを見ると、「2年で73%」は十分かもしれません。しかし、ここでExit(退散)してしまうと、「煽って、株価を上げた投資家」という評価になってしまうように思います。

パリサー・キャピタルの(他の企業への)投資活動は今後も継続されるわけなので、自分達が絡む投資案件を(いい意味で)より注目度のあるものにしたいのではないかと思っています。その方が、企業との交渉も楽ですし、株価が上昇する可能性も格段に高まると思いますので。

そんなことで、パリサー・キャピタルとしては「まだ道半ば」といったところかなと想像します。

それに、(前述のように)7%規模のOLC株売却が行われた場合の株価へのインパクトは絶大になると予想されますので、パリサー・キャピタルとしては「簡単には引けない!」という心境かもしれません。

一方、パリサー・キャピタルに追随した多くの投資家の方々は、どうだったのか?

(もちろん)どこで購入して、どこで売却したか? によりますが、多くの投資家の方々が「儲かった」のではないか、と。

「物言う株主」に追随するのは、比較的確度の高い投資手法のように(個人的には)思っています - もちろん、物言う株主によると思いますし、外れることもあると思いますので、十分にご注意ください。

京成電鉄の株価は、今後、どうなりそうか?

正直、どうなるかはわかりません。

個人的には、「京成電鉄はこれ以上、動かない。なので、株価も(この案件を材料としては)上がらない」のではないかと感じています。

理由はシンプルで、「伝統的な日本企業の経営者は、まだそこまでは踏み込めないのではないか?」、「1%、2%という少量の保有株を売却することで、なんとかやり過ごす、という意思決定しかできないのではないか?」という(残念な)肌感覚があります。

反対に、「京成電鉄が、OLC株の保有を15%未満まで減らすようなことがあれば、それは日本の大改革だ!」という風に思っており、それは同時に「日本株を大きく買う絶好のタイミングだ!」と感じます。

それでも、1%とはいえ、京成電鉄がOLC株を売却したことは(これまでの日本企業のガバナンスを考えれば)画期的なことだと思います。「ドアは、少しだけど開いた!」ということであり、海外から同種の「物言う株主」がさらに参戦する可能性が非常に高いと思います。そして、それを原動力とした「コーポレート・ガバナンス相場」的な環境がますます強くなる可能性が高いのではないか、と。

政策保有株(所謂、持ち合い株)が多い企業、キャッシュ残高が多い企業、再編が必要だと思われている企業などはターゲットになりやすいので、そうした企業をリサーチするのもいいかもしれません(私もやっておこうと思っています)。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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